ノンテクニカルサマリー

大学発ベンチャーによる研究成果の商用化の地域特性に関する研究

執筆者 カン・ビョンウ (一橋大学)/元橋 一之 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト デジタル化とイノベーションエコシステムに関する実証研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「デジタル化とイノベーションエコシステムに関する実証研究」プロジェクト

イノベーションや新しい雇用の源泉として研究開発型ベンチャー企業が注目されているが、その中でも大学における科学的知見をベースにした大学発ベンチャーに対する期待が大きい。日本においては、2001年の大学発ベンチャー1000社計画(「平沼プラン」)をはじめとして、大学発ベンチャーの振興に対してさまざまな政策が打ち出されてきた。最近では、従来からサイエンスベース産業として注目されてきたバイオ分野のベンチャー企業に加えて、AIやIoTなどの情報技術をベースとした起業が進み、2018年度のMETI大学発ベンチャー調査によると2,278社の企業が存在し、年間で185社の増加が見られる。

全国各都道府県に存在する国立大学法人やそこからスピンアウトして生まれたベンチャー企業の活動は、研究開発資源に乏しい地方経済にとっても重要な存在である。イノベーションは地理的に集積する特性を持つことが知られているが、地域のイノベーションクラスターの形成にあたって、大学発ベンチャーは重要な役割を担っていると考えらえる。ここでは、METI大学発ベンチャー調査によるベンチャー企業リストと特許情報の接続データを用いて、地域の産業特性と大学発ベンチャー企業の関係について定量的な分析を行った(2018年度調査におけるすでに廃業した企業も含む2,510社のうち、特許データと接続できた884社、特許件数として6,829件を活用)。

具体的には、大学発ベンチャー企業の保有する特許の技術特性と、それらが立地する都道府県における企業特許の技術特性(北海道における食品産業、愛知県における自動車産業などの各都道府県における特徴的な産業構造を反映)の比較を行った。結果として、下図のようにさまざまな技術分野に広がる大学特許の中で、大学発ベンチャー企業の特許は、より地域産業の技術特性に近い分野に集中していることが分かった。また、大学の特許の中には産学連携によるもの(大学と大学発ベンチャー企業以外の企業との共同出願特許)が存在するが、これらの特許と比較しても、地域産業の特性とより類似性が高いことが分かった。

この傾向は、METI調査の中で明らかになっている大学発ベンチャーのタイプ(研究成果型、共同研究型、技術移転型、学生起業型、出資等関係型の5種類)のすべてにおいて見られたが、大学発ベンチャーの中での違いを見ると、地域産業との近接性は、技術移転型>研究成果型、共同研究型、学生起業型>出資等関係型の順番で見られることが分かった。

本研究の成果は、大学発ベンチャーの成立や成長において、ビジネスパートナーや人材の供給源としての地場企業の重要性を示唆したものであり、また、大学発ベンチャーの振興を行う際には地域的な特性に配慮する必要性を示唆している。大学発ベンチャー政策を実施する際には、国が画一的な運用を行うのではなく、都道府県などの地方自治体ごとの自主的な取り組みを慫慂することが適当である。ただし、首都圏や関西圏などの都市圏においては、大学発ベンチャー企業と出身大学の所在地が都府県をまたがっているケースが多く、都道府県ごとではなく広域連携を進めることが適当である。