ノンテクニカルサマリー

「未来人」になることで人々は何を語りだすのか?―「仮想将来世代」をよき意思決定のための一般準則のなかに位置付ける

執筆者 廣光 俊昭 (財務総合政策研究所)/北梶 陽子 (広島大学)/原 圭史郎 (コンサルティングフェロー)/西條 辰義 (高知工科大学フューチャーデザイン研究所 / 総合地球環境学研究所)
研究プロジェクト 経済成長に向けた総合的分析:マクロ経済政策と政治思想的アプローチ
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

マクロ経済と少子高齢化プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「経済成長に向けた総合的分析:マクロ経済政策と政治思想的アプローチ」プロジェクト

長期的な影響を伴う公共の決定において、現世代による決定は、将来世代の福祉を含む長期的な福祉にも影響を与える。しかしながら、意思決定過程に参画できるのは現世代に限られる。本稿では、西條辰義等によるフューチャー・デザインの提案を踏まえ、将来世代になり切って意思表示を行う「仮想将来世代」を、わが国の地方都市における住民間討議に招き入れる。討議の分析から以下の点を明らかにしている。

  1. 1)①テキストマイニングによる分析、②独立した判定者による討議の特徴の判定を通じ、仮想将来世代による討議では、世代間で共通する基礎的ニーズへの関心が高まることを明らかにした。
    ※参考1(□サイズの大きいほど、関連話題への言及が多いことを示す)では、現世代としての討議(Part 1)では、交通、施設整備等の身近な要望が多いのに対し、仮想将来世代としての討議(Part 2)では、景観・環境、防災、農業、世代間交流・祭りへの言及が多いことを示す。
  2. 2)仮想将来世代らしい発言をする被験者の属性を検討し、対人反応性のうち、(他者に共感する感情的側面よりも)他者の視点から物事をみる能力など認知的側面が、将来世代らしい発言をする上で好ましい条件であることを明らかにした。また、未来から現在を回顧する一定の型の発言においては、他の参加者から発言の型を学習する経路が効いていることも明らかにした。
  3. 3)Rawlsによる無知のベール等の哲学上の議論を参照しつつ、仮想将来世代を導きいれる試みを、よき意思決定のための一般準則という広い文脈のなかに位置付け、その意義を明らかにした。具体的には、仮想将来世代としての討議では、個別の利害から離れ、異なる世代に共通する原理上の選択に関わる議論が重みを持つ。また、仮想将来世代の討議においては、基礎的ニーズへの関心が高まる傾向(十分主義の原理)などを見出した。

現世代、仮想将来世代としての討議の特徴を、参考2として整理した。

仮想将来世代として討議することは、現世代のみの通常の討議とは異なる優れた特徴を有する。本稿で分析の対象とした住民討議は、地方都市での総合計画の実際の策定過程において実施されたものである。本稿で見出したことは、今後、地方自治からグローバルなものまでさまざまな公共の意思決定に仮想将来世代による討議を組み込んだ上で、参照すべき成果となるものである。

参考1:Parts 1(現世代としての討議), Part 2(仮想将来世代としての討議)における話題
(Group A~D全体)
参考1:Parts 1(現世代としての討議), Part 2(仮想将来世代としての討議)における話題
参考2:現世代、仮想将来世代としての討議の特徴(summary)
参考2:現世代、仮想将来世代としての討議の特徴(summary)