ノンテクニカルサマリー

有権者は候補者の年齢をどう評価しているか

執筆者 Charles McCLEAN (カリフォルニア大学サンディゴ校)/尾野 嘉邦 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 人々の政治行動に関する実証研究ー経済産業面での政策的課題に対するエビデンスベースの処方箋の提示を目指して
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

融合領域プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「人々の政治行動に関する実証研究ー経済産業面での政策的課題に対するエビデンスベースの処方箋の提示を目指して」プロジェクト

選挙で選ばれる政治家は、彼らが代表する有権者よりも一般的に年上で高齢になる傾向がある。これは、有権者が若い候補者よりも年配の候補者を好むために生じるものなのだろうか。有権者が選挙において投票する上で、候補者の年齢が有権者の判断に及ぼす影響について理解するため、2020年3月に日本において2つのサーベイ実験を行った。ここでは、顔の構造や輪郭をそのままに、若年・中年・高齢に見えるように、人工知能を用いて操作した仮想の市長候補の顔写真を使用し、それを全部で6,000名余りの日本人有権者に評価させた。

まず1つ目の実験では、見た目を操作した2人のモデルの顔写真を並べて提示し、市長選挙を想定させたうえで、2人が競い合う市長選挙に投票に行こうと思うかどうか、どちらの候補者に投票したいと思うかについて質問した。その結果、高齢の候補者同士が競い合う場合に有権者の投票参加の意欲が大きく低下しただけでなく、図1に示すように、若年・中年の候補者に比べて、高齢の候補者への支持が減少する傾向が見られた。また、有権者は、若年の候補者を中年の候補者と同様に好意的に見ていることが判明した。興味深いことに、こうした傾向は有権者の年齢に関わらず、すべての有権者の間で観察され、高齢の有権者であっても、高齢の候補者をネガティブに評価する傾向が見られた。

図1:候補者の年齢と投票選択
図1:候補者の年齢と投票選択

次に、どのようなメカニズムでそのような判断に至るのかを検証するために、市長選挙への立候補者として、年齢を操作した2人のモデルの顔写真を1枚ずつ見せたうえで、それぞれについて、選挙公約として強調しそうな政策領域と個人的特性、外見の魅力度などについて評価させる実験を行った。その結果、図2に示すように、若い候補者は教育と保育を、中高年の候補者は治安と経済を、高齢の候補者は医療と老人福祉を重視すると捉えるほか、若い候補者ほど長期的視野を持っていると考えるなど、候補者の年齢によって、有権者の抱く印象が大きく異なっており、有権者の間で、候補者の年齢がヒューリスティックとして使われていることが伺える。さらに重要なことに、こうした年齢と結びついたステレオタイプをコントロールしてもなお、有権者は高齢の候補者を一方的に嫌う傾向が示されており、選挙において高齢の候補者ほど不利である結果となっている。

図2:候補者の年齢と政策領域のステレオタイプ
図2:候補者の年齢と政策領域のステレオタイプ

このような実験結果は、市長候補者の多くが、一般的に人口に比べて高齢であるという現実に反するものであり、多くの若手政治家が公職に就けない理由は、有権者側の需要ではなく、むしろ政党など供給側の要因であることが示唆される。