ノンテクニカルサマリー

知らぬが仏? 年齢、誤解、女性政治家への支持

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

融合領域プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「人々の政治行動に関する実証研究ー経済産業面での政策的課題に対するエビデンスベースの処方箋の提示を目指して」プロジェクト

代表制民主主義は、有権者が自らの価値観や利害を反映した選好を形成して、それを表現し、それに基づいて行動することができる場合に最も効果的に機能する。有権者が政治に関して不完全または誤った情報を持っていると、この代表制民主主義はうまく機能せず、最悪の場合、誤った情報によって、有権者は自らの利益に反する立場を支持してしまうことにつながるかもしれない。たとえば、既存研究によると、若者ほどフェミニズムに理解を示し、リベラルで平等志向を示す傾向にあるとされる。その一方で、最近のサーベイ実験による研究では、若年層ほど女性候補者を選択しない傾向が見られている。

こうした若者ほど女性候補者を選ばない傾向は、若者が女性政治家の数を過剰に推計しているせいかもしれない。すなわち、若年層の有権者が、すでに女性政治家の数は多いので、選挙であえて男性よりも女性候補者を選択する必要がないと考えている可能性がある。実際に、女性政治家の数を過少推計する人ほど女性政治家の数を増やすべきと答え、過剰推計する人ほど女性政治家を増やす必要はないと答える傾向にあることが判明している。また、政治家の給与の額や人口に占める黒人・マイノリティーの比率、失業率の数値など、政治について有権者が何を知り、何を信じているのかについて、有権者の間で大きな違いがあるとされる。本研究では、女性政治家の割合について、米国の有権者がどう推計しているのか、そして何が彼らの推計結果に影響を与えているのかについて、とりわけ有権者の年齢に焦点を当てて、検証する。

2019年12月に米国の有権者3000人を対象にインターネットを通じて調査を実施した。その結果によると、米国の連邦議会および居住する州議会における女性議員の比率について、有権者の間で回答に大きな分散があるだけでなく、大多数の有権者が過大に推計していることが判明した。下記の図は、回答者が答えた女性議員の比率を横軸に、実際の回答者の割合を縦軸にとった度数分布表であるが、平均値と中央値のいずれも実際の比率より高く、平均値については実際の数値よりも14.4ポイント(連邦議会)、5.5ポイント(州議会)高く推計する結果となっている。

図

それでは何が有権者の推計値に影響を与えているのだろうか。それを解明するため、回答者の年齢や人種、学歴、所得、支持政党、宗教観といった個人特性の他に、回答者の選挙区で女性候補者が当選したことがあると記憶しているかどうか、実際の州議会の女性議員の比率といった変数を用いて回帰分析を行った。その結果、大多数の有権者は、議会で何人の女性が当選したかを過大に評価しているが、こうした誤った認識を持つ有権者の数は年齢とともに減少していることが明らかになった。若い世代の有権者ほど、女性政治家が議会でどのくらいの議席を得ているかを過大評価する傾向にあり、こうしたパターンは特に男性有権者の間で強くみられる。また、過去に自らの選挙区から女性候補者が当選したと記憶している有権者ほど、女性政治家の数をさらに過大評価する傾向がみられた。

若い世代の有権者のこうした誤解は、本人の本来の意思に反して、女性候補者を選挙で選ぶ必要性を抑え、政治に対する信頼感を高めてしまうことで、「知らぬが仏」効果を生じさせてしまっている可能性がある。これとは対照的に、より現実に近い正しい認識を持つ高齢者の存在は、政治における男性優位の支配体制を社会の中でより明白にしてくれるとともに、それを変える原動力となるかもしれない。