ノンテクニカルサマリー

裁判官の属性と法の支配をめぐる適正性の認識:人種、ジェンダー、裁判官の公平性に関する国民の評価

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

融合領域プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「人々の政治行動に関する実証研究ー経済産業面での政策的課題に対するエビデンスベースの処方箋の提示を目指して」プロジェクト

司法手続きの公平性に対する認識は、法制度の正統性に影響を与えるが、司法手続き自体を改革することで、法の支配に対する国民の支持を強化することが出来る。しかし、近年、司法当局は大きな課題に直面している。それは、司法の公平性に対して、変えることのできない裁判官の属性(たとえば、性別や人種など)に基づいて、人々から疑問が投げかけられたり、非難がなされたりすることである。たとえば、ソニア・ソトマイヨール氏が最高裁判事に指名された際、上院の承認手続きの中で、自身がラテン系の女性であることについて言及したことに対して、右派の上院議員らから、彼女は法律を公平に適用することが出来ないとして批判の声が上がった。またトランプ大統領が2016年の大統領選挙の際にキャンペーンの中で、ヒスパニック系の裁判官に対して、自身の裁判に公平な判決を下すことが出来ないだろうとして批判したことも記憶に新しい。こうした政治家たちからの声に対して、一般有権者たちはどのように考えているのだろうか。

本論文では、米国における法制度の文脈において、女性やマイノリティーといった裁判官の属性が司法の公平性に対する人々の認識にどのような影響を与えるのかについて理解するため、それぞれ3,000人の米国人有権者を対象とする2つのサーベイ実験を実施し、そのデータを分析した。具体的には、まず、裁判の事例について報じる短い記事を用いて、記事中に登場する担当裁判官の名前を操作し、その裁判官の公平性を評価させる実験を行った。その結果からは、裁判官の名前から想起される性別や人種・民族によって、裁判結果が公正かどうかの判断が変わることが明らかになった。特に女性とヒスパニック系裁判官の場合、有権者は裁判結果がよりリベラルなものになると予想し、右派と左派の人々の間で、裁判官に対する評価が大きく異なることが明らかになった。下記の図は、女性裁判官(青色四角の点)・ヒスパニック系裁判官(赤色三角の点)の判断にバイアスがあると判断するかどうかを示したもので、共和党を支持する右派の人たちに比べて、民主党を支持する左派の方が、よりマイナスの方向を示す、つまり、よりバイアスが小さいと答えていることを示している。

図

図中の四角と三角の点は、それぞれ女性やヒスパニック系裁判官の判断にバイアスがあると被験者が思う程度を示す推計値を示し、直線は95%水準の信頼区間を示す。

次に、裁判に関する同様の記事を被験者に読ませた上で、2人の裁判官のプロフィールを無作為に作成・提示し、裁判を行う上で、どちらの裁判官の方がよりバイアスがあると思うかについて答えさせる実験を行った。下記の図の結果が示すように、民主党支持者の間では、男性に比べて女性裁判官の方が、白人に比べてヒスパニック系裁判官の方が、より裁判結果が公平であると考えられているのに対して、共和党支持者の間では全く正反対の判断がなされており、上記の実験結果と同様の結果が示された。

図

図中の点は、裁判官が公平であるかどうかを被験者が判断するうえで、それぞれの属性がどの程度影響を与えているかを示しており、正の値は公平性に欠ける度合いが強いと判断されていることを示す。