ノンテクニカルサマリー

中国インターネットプラットフォーマーの技術的競争力:特許テキスト情報を用いたグーグルとバイドゥの比較

執筆者 元橋 一之 (ファカルティフェロー)/朱 晨 (東京大学)
研究プロジェクト デジタル化とイノベーションエコシステムに関する実証研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「デジタル化とイノベーションエコシステムに関する実証研究」プロジェクト

近年、米中の貿易摩擦が激化する中で、中国企業における技術的キャッチアップの状況は世界的な関心を集めている。その中でも中国のインターネットプラットフォーマーであるBAT(Baidu, Alibaba, Tencent)は、米国GAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)と並び称される存在となっており、中国における膨大なモバイルインターネットユーザーのデータをバックに、AIやビッグデータ技術の分野で急速に力をつけてきている。ここでは米中の特許情報を使って、インターネット検索ポータルからのビッグデータをベースに広告事業を手掛けるBaiduの技術的キャッチアップを、同様のビジネスを展開するGoogleと比較することで明らかにした。

データとしては、インターネット関連技術に関する米国特許(USPTO)と中国特許(CNIPR)の合計約100万件(そのうち、Google特許は15,600件、Baidu特許は4,400件)のそれぞれについて、要約文書をベクトル表現化したもの(自然言語処理における分散表現技術を用いて300次元のベクトル化)を用いた。技術ポートフォリオ全体を俯瞰するためのクラスタリング分析と、個々の特許の累積度と影響度に関する指標を開発しミクロに見た技術力評価分析を行った。

まず、クラスター分析の結果によるとBaiduとGoogleはウェブ検索やインターネット広告に必要となる「インターネット検索」や「自然言語処理」といった分野に共通して多くの特許を出願している。しかし、Baiduにおいては「モバイルアプリケーション」に注力している一方で、Googleは「ウェブコンテンツ」に多くの特許を有し、デスクトップPCに対してモバイル環境が急速に進んだ中国の市場特性を反映したものとなっている。また、Googleにおいては「ファイル処理技術」や「ストレージ技術」などのITインフラ技術なども含めて多くの分野に特許出願をしていることに対して、Baiduの特許はデータアナリティクスを中心としたアプリケーション分野に偏っている。 更に、Baiduの技術的キャッチアップを見るために内容の似通った特許(ベクトル空間における近傍特許)の分布状況から、Baidu特許の累積度指数と影響度指数の変化を見た(図参照、なお指数の説明については図中の脚注参照)。その結果、当該特許がベースとしている技術トレンドを見た累積度指数では、中国特許(中国企業の出願技術)に対する指数が下降傾向である一方で、米国特許については上昇を続け、最近では1以上(平均以上)となっている。つまり、Googleを含めた米国企業の技術を積極的に取り入れて成長してきたことがうかがえる。次に後発特許に与える影響度指数をみると、Baiduの特許は近年急速な上昇が見られ、中国特許、米国特許両者において上昇トレンドが見られる。2016年には米国特許における指標が1以上(平均以上)となっており、技術的キャッチアップとともに米国インターネット企業と比べても遜色ない技術水準に成長してきていることが分かった。

図:Baiduの累積度指数(左)と影響度指数(右)
図:Baiduの累積度指数(左)と影響度指数(右)
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(注)「累積性指数」は内容的に類似している特許が当該特許の出願年の前にどの程度存在するか(既存の特許技術に対する累積度)を、「影響度指数」は類似特許が当該特許の後にどの程度存在するか(当該特許技術の他の特許に対する影響度)を示したものである。なお、All(すべての特許)、US Patent(米国特許)、CH Patent(中国特許)のそれぞれの平均値で割り戻した値を示しており、1より大きい(小さい)と平均的にそれぞれの度合いが大きい(小さい)こととなる。