ノンテクニカルサマリー

労働市場の二極化による厚生効果:ライフサイクルにおける職業遷移

執筆者 菊池 信之介 (マサチューセッツ工科大学)/北尾 早霧 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 少子高齢化における個人のライフサイクル行動とマクロ経済分析:財政・社会保障政策の影響
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

マクロ経済と少子高齢化プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「少子高齢化における個人のライフサイクル行動とマクロ経済分析:財政・社会保障政策の影響」プロジェクト

本研究では、米国労働市場における二極化がさまざまな個人に与える厚生効果を分析する。

米国では過去数十年にわたり労働市場の二極化が進み、対人サービスが中心の低スキル労働および高い思考力が必要な高スキル労働と比較して、定型的な仕事に従事する中間スキル層の雇用シェアと賃金が低迷してきた。図1は、人口動態調査(CPS)を基に、全職業を手作業中心の職業(Manual)、抽象的な思考を伴う職業(Abstract)、定型作業の多い職業(Routine)とに分類し、それぞれの職業の過去35年間の雇用シェアと賃金の推移を示している。

図1:米国労働市場における二極化
図1:米国労働市場における二極化
出所)CPS

さらに、図2に示すように、年齢や教育水準など、個人の属性によって職業の分布は異なり、鍵となる異質性を取り込むことは二極化の厚生効果を数量化する上で重要である。

図2:年齢・教育水準ごとの職業分布
図2:年齢・教育水準ごとの職業分布
出所)CPS 1983-1985

本研究では、個人による消費・貯蓄・労働供給・職業選択、さらに人的資本貯蓄を内生化させた、大規模な(full-blown)世代重複型モデルを構築する。モデルにおいて個人は労働生産性・寿命の不確実性に加え、離職リスクにも直面する。1980年代初頭の労働市場における年齢別の職業分布と遷移確率に合致するようモデルをカリブレートした上で、その後数十年にわたる賃金構造の変化に対して異質な個人がどのように反応し、厚生が変化するかを数量分析する。

分析の結果、労働市場の二極化は高学歴の若年労働者に恩恵を与える一方、あらゆる年齢層とりわけ若年層の大卒未満の労働者の厚生を悪化させることが明らかとなった。高学歴の労働者の厚生効果を世代間で比較すると、賃金上昇をフルに享受できる若い世代の受ける恩恵がより高い結果となった。低学歴の労働者にとって、賃金の低迷する定型的な仕事から高賃金の抽象的な仕事へと移行するのは容易ではないことも厚生効果の違いが生じる一因である。労働市場の二極化によって大卒プレミアムは上昇し、教育水準の違いによる生涯所得および資産格差の拡大にもつながることが示された。