ノンテクニカルサマリー

輸入圧力の蓋然性下での合併評価:わが国の純銅管からの事例

執筆者 中村 豪 (東京経済大学)/大橋 弘 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 産業組織に関する基盤的政策研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第四期:2016〜2019年度)
「産業組織に関する基盤的政策研究」プロジェクト

競争当局による合併等の企業結合の審査においては、隣接市場からの競争圧力や、新興国の経済発展等を背景とした輸入圧力について、当事会社からの主張も踏まえつつ検討を行っている。その上で、これらの競争圧力が存在することを判断根拠の一つとして競争が企業結合によって実質的に制限されることとはならないと判断した事例も存在する。また輸入圧力の存在等を根拠に競争を実質的に制限することとはならないとした過去の事案について、実行後に需要者等から価格が上昇したとの指摘もある。実際にどのような実態において、競争圧力が存在すると評価ができるのか、その存在の有無の判断における明確な基準がない状況のなかで、本稿では具体的な企業結合の事案を取り上げつつ、競争圧力の存否を評価する上での参考資料を提供する。

具体的には、2013年における古川スカイ(株)と住友軽金属鉱業(株)との純銅管における合併を取り上げる。当該合併における輸入圧力に対する審査時の検討では、「輸入品と日本の純銅管メーカーの製品とが同水準の品質であると需要者に認識されている。〔中略〕輸入圧力が十分に働いていると認められる」とされていた。

分析手法としては、純銅管を同質財と見なし、産業レベルのデータを用いた寡占モデルを前提として、構造推定を用いて需要・限界費用を推定した。需要関数はCES(constant elasticity of substitution)を仮定して、純銅管の需要家は国内財及び輸入財を選択可能としている。また企業は供給に際して、国内向けに出荷をするか、輸出をするかを限界収入の多寡で内生的に判断できるモデルを採用している。モデル適合性を確認した下で、合併しなかった場合における市場のアウトカムをシミュレーションによって計算し、合併の効果を定量的に把握した。

本稿の分析によって、上記の企業結合審査の際の想定とは反対に、輸入圧力はほぼ働いていないという結果が得られた。その理由は、需要関数において国内財と輸入財との間の代替性が乏しいことが原因と推定結果から確認された。企業結合審査において市場外からの競争圧力を判断するにあたっては、市場画定の背景にある需要の交差弾力性を的確に把握することの重要性が再確認された。

図:合併がもたらす価格上昇(%)