ノンテクニカルサマリー

地域金融機関の再編が地域経済に与える影響-市区町村レベルの地域銀行の店舗データを用いた検証-

執筆者 播磨谷 浩三 (立命館大学)/尾崎 泰文 (釧路公立大学)
研究プロジェクト 地域経済と地域連携の核としての地域金融機関の役割
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「地域経済と地域連携の核としての地域金融機関の役割」プロジェクト

マイナス金利政策による厳しい収益環境を反映し、地域金融機関の再編が増加する傾向にある。近く、10年間の時限措置を設けて独占禁止法の適用除外を認める特例法の制定も予定されており、さらに地域銀行の再編が集中的に進むことも予想される。他方、地域金融機関の再編が地域経済に与える影響については、必ずしも明らかにされているわけではない。本論では、2005年度から2015年度までの市区町村レベルのデータを用いて、再編を経た地域銀行の店舗が存在したか否かで、景況指標の変化が相違するのかどうかをDifference-in-differences(DID)の手法を用いて検証を行った。

分析に際しては、再編の形態を、合併による場合と金融持株会社の設立による場合とに分け、それぞれの比較を行った。再編のタイミングが同じではないことから、本論では2005年度と2015年度の2期間のパネルデータを分析対象とし、再編からの経過年数を政策変数として考慮した。合併の分析で対象となるのは7件の事例であり、該当する合併を経た地域銀行の支店が存在した市区町村の数は271である。また、金融持株会社の分析で対象となるのは5グループの事例であり、該当する傘下銀行の支店が存在した市区町村の数は320である。

表1の通り、合併を経た地域銀行を対象とした分析結果については、政策効果を反映する合併ダミー変数、合併トレンド変数のいずれとも、市区町村の景況指標のほぼすべてに対して有意な影響を与えていないことが見て取れる。

表1:推定結果(合併効果)
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対照的に、表2の通り、金融持株会社設立を経た地域銀行を対象とした分析結果については、ほぼすべての景況指標に対して有意な影響を与えていることが見て取れる。課税対象所得と地方税歳入額を被説明変数とする推定モデルでは、合併ダミー変数の推定値はマイナスとなっており、再編を経た地元銀行の店舗が存在した地域ほど景況が悪化することが示されている。しかし、合併トレンド変数の推定値はプラスとなっており、再編からの経過年数に比例して改善することが理解できる。他方、開業率に対しては、それぞれの推定値の符号は反対となっている。

表2:推定結果(金融持株会社設立による再編効果)
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なお、都市部における地域銀行の競争環境の違いを考慮し、東京都区部と政令指定都市を除いて同じ分析を行ったが、合併、金融持株会社の設立のいずれとも、整合的な結果が得られることが確かめられた。

このように、合併による効果は認められず、金融持株会社による効果は認められるという本論で明らかにされた対照的な結果は、急激な経営組織の変化を伴わずにグループとしての統一的な経営戦略を推進できるという金融持株会社による再編の利点を反映していると見ることができる。現在の経営環境を考えれば、今後、地域銀行の再編はより進んでいくと予想できるが、近年の傾向を見る限り、金融持株会社を活用する方式がより一般化すると推察される。時間の経過が必要であるにせよ、金融持株会社による地域銀行の再編は地域経済にプラスの影響をもたらすことを示唆する本論で得られた内容は、これから予想される変化を肯定的に捉えていると見ることもできよう。