ノンテクニカルサマリー

多角化の資源としての本社機能

執筆者 川上 淳之 (東洋大学)
研究プロジェクト 生産性向上投資研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「生産性向上投資研究」プロジェクト

日本においては、多角化している企業が選択と集中を進めることによって効率化が進むという議論がされてきたが、近年の研究では、多角化による新規事業への参入と、それにともなって進められる海外での事業展開に注目をしている実証研究が多数蓄積されている。しかし、多角化が企業の生産性に与える影響は正の効果も負の効果もともに観察されている。

そこで、多角化と企業の生産性の相関関係を検証するため、経済産業省「企業活動基本調査」を用いて、まず多角化企業と単一事業で生産活動を行っている企業の生産性の比較を行った。その結果から、90年代においては、単一事業企業の生産性のほうが相対的に高かったが、2000年代以降はその関係が逆転して、多角化企業が効率的であるという結果が示された。

一方、Nocke and Yeaple (2014)が示しているように、多角化された事業を行う源泉として組織を運営するための資源が必要になると考えられる。この論文では、その資源を本社の社員(特に、間接部門の社員)ととらえ、本社の社員と多角化の間に正の相関関係があることを単純な推定結果から確認した。また、その効果は企業の経営方針に関わる調査企画部門についてもみられている。

ただし、これは、本社の機能が拡充されることによって多角化がされるというよりは、多角化がされている企業では本社機能の従業員が多くなるという逆の因果関係によることが、操作変数を含む固定効果モデルという分析方法から明らかになった。

組織の効率性は事業の追加と削減の両方を促しており、本社機能は多角化された事業を管理する上では大きな役割を果たしている。一方で、新たな事業を産み出すためには、組織の規模を大きくする必要はあるが、積極的に新規事業を促進するためには、本社部門の効率性を高める施策を講じる必要があることが示唆された。

図表:多角化の有無別にみた労働生産性の推移
図表:多角化の有無別にみた労働生産性の推移
注)労働生産性を、多角化ダミー、多角化ダミーと年次ダミーの交差項、製造業ダミー、製造業ダミーと年次ダミーの交差項で推定する固定効果モデルで得られた推定値から、多角化企業と非多角化企業別に労働生産性対数値の予測値を推定している。
参考文献
  • Nocke, Volker, and Stephen Yeaple. 2014. "Globalization and Multiproduct Firms." International Economic Review 55 (4): 993-1018.