ノンテクニカルサマリー

消費者態度指数や資産価値予測は昼の長さに影響されるか?:SAD(季節性情動障害)仮説の検証

執筆者 関沢 洋一 (上席研究員)/小西 葉子 (上席研究員)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

1. 問題意識

人々が抱くさまざまな感情がその人の抱く将来見通しに影響を及ぼすことが心理学などの研究によって明らかにされている。たまたま不安な気持ちになっている人は、その不安な気持ちの原因となる出来事とは関係ないことについてまで、将来見通しが悲観的になり、たまたま幸福感を抱いている人は、その幸福感の原因となる出来事とは関係ないことについてまで楽観的な将来見通しを抱く。

このような感情の将来見通しへの影響は経済現象についても起きているだろうか?

直接的な検証は難しいが、感情が季節によって変化するという心理学の知見を利用した研究が経済学で行われている。昼の長さが短くなる秋と冬に人々の気持ちは沈み込む傾向があり(SAD(Seasonal affective disorder)とかウィンターブルーと呼ばれる)、これが秋から冬至にかけての人々の経済における将来見通しの悪化につながり、冬至を過ぎると人々の気持ちが明るくなりはじめて将来見通しも楽観的になるとされる。このような将来見通しの変化によって、株式のリターンをはじめとした金融商品の価格において季節変動が生じていると主張されている(以下ではSAD仮説と呼ぶ)。しかし、SAD仮説については批判も強い。

本研究は、日本の消費者態度指数に着目して、家計による経済に関する将来見通しにおいてSAD仮説と整合的な季節性が見られるかどうかを検証した。消費者態度指数は、日本全国の約8400世帯のアンケート調査(消費動向調査)に基づいて家計による半年後の経済見通しを数値化したもので、内閣府が毎月発表しており、景気の先行指標として使われている。

2. 分析結果の概要

各月毎の消費者態度指数の平均値を2004年4月から2018年8月まで追跡したグラフが図1に示されている。12月が一番得点が低く、5月が一番高くなっている。消費者態度指数の質問ではその時点における経済状況の認識を聞いているのではなく、半年後の見通しを聞いているので、たとえば、図1に従えば、多くの家計は1月(7月から半年後)から6月(12月から半年後)まで経済が悪化していくと予想していることになる。人々は5月に最も経済面で楽観的で8月から12月にかけて悲観的になっていき、1月になると楽観的になり始めることになる。1月や6月の数値など例外はあるものの、図1は概ねSAD仮説と整合的なものとなっている。

SAD仮説によれば、緯度が高い地域ほど昼の長さの季節差が大きいために消費者態度指数の季節間変動も大きくなるはずである。この点を検証するため、図2では、緯度が低い九州・沖縄地方と緯度が高い北海道の間の消費者態度指数の差を掲載した。これを見ると、九州・沖縄と北海道を比べた緑色の線では九州・沖縄が北海道に比べて数値は高いものの、夏にはその差が小さく冬になると大きくなっており、SAD仮説と整合的になっている。

より厳密に、固定効果モデルと呼ばれる回帰分析によって検証したところ、消費者態度指数には12月を底として初夏を頂点とする季節変動があること、緯度が高い地域ほど季節変動が大きいこと、昼が長いほど消費者態度指数は改善することが分かり、本研究の結果は概ねSAD仮説を支持するものとなった。

図1:家計における半年後の経済見通し
(消費者態度指数)の月別の平均値
図1:家計における半年後の経済見通し (消費者態度指数)の月別の平均値
図2:月別の消費者態度指数の地域差
図2:月別の消費者態度指数の地域差

3. 本研究の制約と今後の方向性について

消費者態度指数を算出するためのアンケート調査では回答時点における感情を尋ねる質問がないため、消費者態度指数の季節変動が感情によって生じているのか、その他の要因によって生じているのかは今回の研究では検証できなかった。消費者態度指数の質問と感情に関する質問を同時に尋ねる調査を長期にわたって何度も行うなどして、本当に季節間の感情変動があるのか、あるとしたら、その変動が消費者態度指数の変動につながっているかをより直接的に検証することが望まれる。