ノンテクニカルサマリー

21世紀日本を巡る国際金融環境の変化――為替政策と国際金融協調――

執筆者 井戸 清人 (国際経済研究所)
研究プロジェクト 産業再生と金融の役割に関する政策史研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策史・政策評価プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「産業再生と金融の役割に関する政策史研究」プロジェクト

1990年からの20年間は、バブル経済の崩壊、金融自由化と金融危機、そしてアジア通貨危機などにより、日本の経済金融システムにとって大きな転換点となった。本稿は、日本を巡る国際金融環境の変化に注目して、為替政策の変遷、アジア通貨危機、国際金融協力体制の変化について概観した。

1985年のプラザ合意以降のドル円レートは、米国の金利が日本より高いにもかかわらず、米国のインフレ率が日本より高いこともあり、円高傾向があった。しかし、最近では100円から110円の間で比較的安定的な動きとなっており、世界的に低金利になっているためもあるが、金利と為替レートの相関関係も弱まっているようである。また、日本の経常収支構造も変化している。最近では、貿易収支の黒字が減少し、海外投資からの利子配当所得が増加している。これは、アベノミクス以降、円安になったにもかかわらず輸出額が以前の水準に戻っていないことが影響しており、日本企業が生産拠点を海外に移転していること(オフショアリング)や、グローバル・サプライ・チェーンの進展などで、今後は海外拠点からの配当受取などが増加すると思われる。

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アジア通貨危機を契機として、東アジアの金融協力も進んでおり、アセアンと日中韓のマクロ経済リサーチオフィス(AMRO)とチェンマイ・イニシアティブ(スワップによる金融セーフティネット)により経済・金融は安定してきている。また、現地通貨建て債券発行を支援するためにアジア開発銀行に設けられた「信用保証・投資ファシリティ」の資本も、12億ドルへと増加している。しかし、最近のドル金利の低下により、民間企業のドル建て債務が増加していること、インフラ投資のために東アジア諸国の中にはソブリン債務が増加している国もあることが懸念される。また、今後海外との資本取引の自由化、変動相場制導入などが進展するに伴い、いわゆる「国際金融のトリレンマ(自由な資本移動、為替相場の安定、独立した金融政策は共存できない)」への対応も必要になってくると思われる。

東アジアで金融協力が進む一方、欧州では欧州中央銀行が1999年に創設され、ユーロが導入された。世界貿易でWTOを中心としたグローバルな体制と並行して、FTAや地域自由貿易協定が整備されてきたのと同様に、国際金融面でもIMF/世界銀行というグローバルな協調体制と地域金融協力体制との緊密かつ効率的な協調体制が重要になっている。また、1970年代以降、G7が為替政策を始めとしたマクロ経済・金融政策の国際的議論をリードしてきたが、新興国経済の成長により1999年にはG20へと拡大された。最近のG20では、国際金融や為替政策だけでなく、世界経済の持続可能で包摂的な成長の実現のために幅広いテーマについて議論が行われている。今年6月にはG20サミットが大阪で開催されたが、財政大臣プロセスでも、グローバル・インバランスや高齢化などのマクロ経済問題、電子商取引課税、インフラ投資や途上国債務などの開発問題、国際課税や暗号資産などの財政金融問題などについて議論が行われている。今後早期に具体的な成果が得られることを期待したい。