執筆者 | 徳井 丞次 (ファカルティフェロー)/水田 岳志 (一橋大学経済研究所) |
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研究プロジェクト | 地域別・産業別データベースの拡充と分析-地域別・産業別生産性分析と地域間分業 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
産業・企業生産性向上プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「地域別・産業別データベースの拡充と分析-地域別・産業別生産性分析と地域間分業」プロジェクト
日本穀物検定協会から毎年発表される米の食味ランキングについて、関心を持ったことがある人は多いのではないだろうか。その比較の基準として使われているのが、コシヒカリのブレンド米である。この品種が基準に使われるのは、東北地方以南の日本各地で栽培されているためであろう。その一方で、コシヒカリの産地によっては、米の食味ランキングの最高の特Aにランク付けされている。このように、農産物の品質は、作物の品種だけでなく、生産地の気候風土に大きく左右される面がある。
他方、農産物の製造業製品と比較したいま一つの特徴は、その金額に対して体積がかさばることで、消費地までの輸送費用が相対的に重要になる。その意味でも、農産物はその生産地の立地と切り離すことができない。そして、消費地から遠くて輸送費用上不利な生産地がその不利を克服する手段は、品質評価を高めて単価を上げていくことである。この意味で、政府が進める農産物輸出促進政策のキーポイントも品質の向上にある。
このように日本の農業では、生産量当たりの収入を高める方向性が推奨され、実際にもそうした方向での経営努力がなされてきた。しかし、日本農業の生産性分析には既に数多くの先行研究の蓄積があるものの、農業生産全体の生産者単価に着目して地域別比較を行った研究は見当たらない。そこで本研究では、単位収入関数に基づいて、農産物の生産者価格を地域別に比較する指数を導出し、農林水産省「農業物価統計調査」の品目別農家受取価格を使ってこの指数を計算し都道府県比較を行った。計算に使用したデータは、2002年から2006年の5年間の月次データである。
まずは、その結果を示した図を見てもらおう。地域間比較が可能なようにウェイト付けした指数で、生産者出荷ベースの農産物単価には、上位地域と下位地域の間で実に50パーセントもの開きがある。また、この図は棒グラフの形で、農産物の6大分類別の寄与度が表示されている。一部の都道府県を除けば、出荷金額ウェイトの高い穀物と野菜の地域間価格差が、生産者単価の地域差の主な決定要因であることが分かる。
それでは、こうした生産者単価の地域差は何によって決まっているのであろうか。冒頭に述べたように、その候補となるのは、消費地までの輸送距離と、農産物自体の品質である。このことを確認するために、東京青果物卸売市場での品目別取引価格を被説明変数に、産地から東京までの距離と、生産地での6大分類別生産者単価の地域差とを説明変数にして、年次ダミー、月次ダミー、品目ダミーも加えて回帰分析を行った。その結果、産地から東京までの距離と生産地での大分類別生産者単価の地域差のどちらも正で有意な係数を得た。この結果から、われわれが作成した都道府県別農産物生産価格差指数に、主要消費地までの輸送費用が含まれることは否定できないものの、輸送費用をコントロールしたうえでも生産地での地域間価格差は消費地の価格に対する有意な説明力があり、この部分は地域ごとの農産物の品質あるいはブランド力と解釈される。
また、生産地での地域間価格差と、都道府県別の農地面積当たりの農産物産出額と農業所得との相関も確認した。その結果、農地面積当たりの農産物産出額とは、相関係数の検定で弱い相関が確認できる。データ数が都道府県数と限られていることを考慮すれば、無視できない相関である。また、農地面積当たり農業所得とは有意な相関を確認することができなかったものの、農業所得のデータは農産物産出額から一定の経費率と補助金を調整して作成されているものである点に留意する必要がある。
このように、日本の農業を活性化する手段として品質向上の観点は今後益々重要である。われわれの作成した都道府県別農産物生産価格差指数には、輸送費用と品質の効果が分離できてないことなど幾つかの限界があることは否めないが、農産物の地域ブランド力向上に向けた各地域の意識が一層高まるきっかけになれば幸いである。