執筆者 | 森川 正之 (副所長) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)
1.背景
政府の経済成長戦略において、人工知能(AI)、ビッグデータ、ロボットなど「第四次産業革命」が注目されており、「AI戦略」も策定されている。経済学者の関心も高まっており、AIのマクロ経済や労働市場への影響についての研究がこの数年間に急速に増加している。
しかし、理論的研究の進展にも関わらず、AI等の利用実態に関する企業・事業所レベルの統計データが存在しないことが実証分析の大きな制約となっている。こうした中、筆者は2015年に日本企業に対するサーベイを実施し、企業のAI等の利用実態とその企業経営や雇用への影響に関する見方について、特に労働者のスキルとの関係に焦点を当てつつ観察事実を整理した(Morikawa, 2017)。本稿は、2019年に新たに行ったサーベイに基づき、この約3年間の変化を観察するとともに拡張を行ったものであり、企業のAI等の事業や雇用への見方が変化してきたことが確認された。
2.データ
本稿で使用するのは、筆者が調査票を設計して2019年1~2月にRIETIが実施した「経済政策と企業経営に関するアンケート調査」のデータである。上場企業・非上場企業、製造業・サービス産業をカバーしており、回答企業数は2,500社強である。
今般の調査では、①AI、ビッグデータ、ロボットの利用状況、②AI等の開発・普及が将来の事業、雇用、賃金に及ぼす影響についての見方を調査している。このほか、企業規模、産業、従業者の構成等各種企業特性についても調査しているので、AI等の利用やその影響についての見方と企業特性の関係を分析する。また、2015年調査の結果と比較し、この約3年間に生じた変化についても検討する。
3.分析結果と含意
分析結果の要点は以下の通りである。①AI等を既に利用している企業は少数だが、今後利用したいという企業は多く、前回調査と比較可能なビッグデータの場合、この約3年間に利用したいという企業が大幅に増加している(図1参照)。②AI及びビッグデータの利用は従業者の学歴と強い正の関係があるのに対して、製造業におけるロボットの利用は従業員の学歴との関係が希薄であり、スキルとの補完性は技術によって異なることが示唆される。③AI等の利用は企業のイノベーション実施確率と強い正の関係がある。④AI等の新技術が自社の経営・事業活動に及ぼす影響を肯定的に捉えている企業が多く、2015年に比べてもそうした傾向が強まっている(図2参照)。⑤自社雇用への影響に関しては、従業者数減少につながると見る企業が多く、そうした企業が増加している。なお、事業への影響、雇用への影響は、いずれも「わからない」という回答が大幅に減少しており、新技術の潜在的影響がこの3年間にかなり見極められてきたことを示唆している。