執筆者 | 森川 正之 (副所長) |
---|---|
ダウンロード/関連リンク |
このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)
1. 背景
英国のEU離脱をめぐる混迷、米中貿易摩擦、中東情勢の緊迫化などを背景に、世界経済の不確実性が高まっている。こうした不確実性の経済的インパクトに関する研究は、世界経済危機以降急速に進展している。そして、経済環境や政策の先行き不確実性が、企業の投資行動や家計の消費行動に対してネガティブな影響を持つことが明らかにされている。
企業、家計などがどの程度の不確実性に直面しているかは直接観察できないため、さまざまな代理変数が提案され、実証分析に用いられてきている。理想的な不確実性の把握方法は、企業の売上高、家計の所得などについて、先行き見通しの確率分布を尋ねることだが、そうしたデータは滅多に存在しない。本稿は、日本企業への独自のサーベイを通じて収集した主観的な確率分布の情報を使用し、不確実性を直接に把握することの有用性を検証する。
2. データと分析内容
本稿では、筆者が調査票を設計して2012年度に実施した「日本経済の展望と経済政策に関するアンケート調査」のデータを、事後的な企業財務データとリンクさせて分析に使用する。これは日本の上場企業を対象としたサーベイで、売上高・従業者数の翌年度及び3年後までの変化率について、点予測値とその主観的な確率分布(90%信頼区間)を調査したものである(図1参照)。
主観的な信頼区間の幅が広い企業ほど、売上高などの先行きについての不確実性が高いと考えられる。この主観的確率分布が「事前の不確実性」で、点予測値と事後的な実績値の差が「予測誤差」ないし「事後的な不確実性」である。売上高や従業者数の「事前の不確実性」が高い企業ほど事後的な予測誤差が大きいかどうかが主な関心事である。
3. 分析結果と含意
分析結果によれば、①事前の主観的不確実性の程度は企業によって大きな差があり、事前の不確実性が高い企業ほど事後的な予測誤差が大きい傾向がある。②自社の売上高・雇用の先行き見通しの90%信頼区間を超える予測誤差が生じた企業はごく少数であり、企業のマクロ経済(GDP、CPI)見通しのそれに比べて精度が高い(図2参照)。③統計的有意性は低いが、売上高や雇用の過去の変動が激しかった企業ほど、先行き見通しの主観的不確実性が高い傾向がある。④売上高の先行きに関する主観的不確実性が、現実の設備投資と負の関係を持つことを示唆する結果が見られた。
これらは、企業サーベイに基づく主観的確率分布が、不確実性指標として有用な情報を含んでいることを示している。また、不確実性を低減することが、企業の前向きの投資を促す効果を持つ可能性を示唆している。