ノンテクニカルサマリー

健康診断・レセプトデータを用いた血圧と医療費の関連に関する分析

執筆者 縄田 和満 (ファカルティフェロー)/松本 章邦 (東京大学)/木村 もりよ (一般社団法人パブリックヘルス協議会)
研究プロジェクト エビデンスに基づく医療に立脚した医療費適正化策や健康経営のあり方の探求
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

マクロ経済と少子高齢化プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「エビデンスに基づく医療に立脚した医療費適正化策や健康経営のあり方の探求」プロジェクト

高血圧症は、世界的に最も重要な健康要因と考えられており、多くの研究が行われている。2017年11月にAmerican College of Cardiology(ACC)、American Heart Association(AHA)および他の9機関が合同で、高血圧の新ガイドライン(2017ACC/AHAガイドライン)を発表した。それによれば、高血圧症の基準はこれまでの140/90mmHgから130/80mmHgへと変更されている。本論文では、血圧と医療費の関係を分析し、2017ACC/AHAガイドラインの妥当性の評価を試みた。分析には、3つの健康保険組合から提供されたデータを使用した。まず、88,211人から得られた175,123 件の健康診断の結果と6,312,125のレセプトを統合したデータ・ベースを作成した。データの期間は、2013年度から2016年度である。次に、データ・ベースを使って血圧の分布に影響する要因の分析を重回帰分析によって行った。図1は収縮期血圧(最高血圧、systolic blood pressure, SBP)の分布、図2は拡張期血圧(最低血圧、diastolic blood pressure, DBP)の分布である。

図1:収縮期血圧(SBP)の分布
図1:収縮期血圧(SBP)の分布
図2:拡張期血圧(DBP)の分布
図2:拡張期血圧(DBP)の分布

分析の結果、血圧には、年齢・性別・身長・BMI(body mass index)・いくつかの生活習慣が影響していることを見出した。次に、べき乗変換トービット・モデル(power transformation tobit model)によって医療費と血圧の関係を解析した。医療費と収縮期血圧(最高血圧)との間には、単純な2変数の間では正の相関関係があるものの、べき乗変換トービット・モデルでは有意な負の関係があることが見出された。年齢、性別、BMIを説明変数に加えた場合、収縮期血圧の推定値が負となり、説明変数間の関係を考慮した分析の重要性が示唆された。また、これまでの研究の問題として、特に、標本選択による偏り(sample selection bias)及びCoxの比例ハザード・モデルにおける時間依存変数の問題について論じた。結論として、本研究の結果は2017 ACC/AHAガイドラインは少なくとも収縮期血圧の影響に関しては、心臓血液等の循環器系疾患に留まらない、他の疾病を含む広範囲の疾病に関する研究のレビュー、費用対効果や新規研究の必要性を強く示唆している。