執筆者 | 森川 正之 (副所長) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)
1. 背景
近年、企業の稼ぐ力の向上、攻めの経営の実現などを目的として、会社法改正(2014年)、コーポレートガバナンス・コードの策定(2015年)および改正(2018年)など、(独立)社外取締役の導入・拡大を促す制度改正が相次いで行われた。こうした制度改正を背景に、上場企業では社外取締役が急増しており、横這いで推移している非上場企業とは対照的な動きとなっている(表1参照)。最近は、会社法をさらに改正し、上場企業及び非上場大企業を対象に社外取締役を置くことを義務付けることも検討されている。
社外取締役が経営スタイルや業績に及ぼす効果について海外では多くの研究が行われているが、日本企業を対象とした研究蓄積は限られており、特に最近の制度改正の効果を定量的に検証したものは筆者の知る限り存在しない。
年度 | (1) 社外取締役 | (2) 独立社外取締役 | ||
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上場企業 | 非上場企業 | 上場企業 | 非上場企業 | |
2011 | 52.8% | 46.7% | 42.7% | 21.1% |
2012 | 54.4% | 46.7% | 42.5% | 20.9% |
2013 | 57.8% | 46.4% | 46.2% | 20.7% |
2014 | 68.6% | 46.1% | 57.8% | 20.4% |
2015 | 85.3% | 46.5% | 76.5% | 19.7% |
2016 | 88.1% | 46.2% | 80.4% | 19.9% |
(注)「経済産業省企業活動基本調査」のミクロデータを用いて計算。 |
2. 分析の概要
本研究では、最近の企業統治制度改正に伴う上場企業における社外取締役の急増を「自然な実験」と捉え、社外取締役の増員が投資行動、経営成果に及ぼした効果を分析する。具体的には、「経済産業省企業活動基本調査」のパネルデータを使用し、(独立)社外取締役の増員が、その翌年ないし翌々年の①設備投資、②研究開発投資、③利益率(ROA)、④生産性(TFP)に及ぼした効果を計測する。①上場企業と制度改正の影響を受けなかった非上場企業の比較、②上場企業を対象にした操作変数推計という2つのアプローチで因果関係の解明を試みる。
3. 分析結果の要点
分析結果の要点は以下の通りである(表2参照)。第一に、企業統治制度改正に伴う上場企業の急速な社外取締役の登用・増員が、積極的な投資やリスクテイキングを促した証拠は見出せない。第二に、上場企業における社外取締役増員が、ROAやTFPで見た経営成果を改善する効果も確認できない。ただし、海外のいくつかの実証研究が示すような業績悪化というネガティブな影響も観察されない。第三に、制度的な圧力が存在しない非上場企業の場合、社外取締役の増員は翌年度のROAやTFPと正の相関関係を持っているが、これは独立社外取締役の増員ではなく、親会社など関係会社の社外取締役によるものである。
本研究は短期的な効果の分析にとどまるので、中長期的には違った効果が現れる可能性がありうること、法令遵守・不祥事の抑止などチェック機能への効果は分析の射程外であることを留保しておく必要があるが、これまでの内外の研究が再三にわたって指摘してきている通り最適な取締役会構成は企業特性によって異なることを確認する結果である。企業の視点から解釈すると、他社との横並びで社外取締役の増員を拙速に行うのではなく、自社の事業内容や経営戦略に合致した適材を慎重に探すことが望ましいことを示唆している。政策的には、(独立)社外取締役を置くことを一律に義務付けることには慎重な検討が必要なことを示唆している。
A. 非上場企業との差(DID) | |||
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設備投資 | R&D投資 | ROA | TFP |
0.0022 (0.0020) |
-0.0006 (0.0006) |
-0.0034** (0.0014) |
-0.0115 (0.0097) |
B. 操作変数推計 | |||
設備投資 | R&D投資 | ROA | TFP |
-0.0093 (0.0072) |
-0.0041 (0.0037) |
0.0037 (0.0064) |
-0.0141 (0.0356) |
(注)いずれも社外取締役増員が翌年度の投資・業績に及ぼした効果を表示。Aは上場企業・非上場企業を含むサンプルを使用した推計における社外取締役増員と上場企業の交差項の係数。Bは前年度の社外取締役比率を操作変数とした推計における社外取締役増員の係数を表示。**は有意水準5%。推計方法及び推計結果の詳細は論文を参照されたい。 |