ノンテクニカルサマリー

毎勤データ修正の生産性分析への影響

執筆者 森川 正之 (副所長)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

1. 背景

今般の「毎月勤労統計」(毎勤)データの修正によって賃金(現金給与額)の時系列での動きが従来の公表値と変わったことが、国会やメディアで議論になってきた。また、同統計の所定内給与額は雇用保険、労災保険等の給付額算定の基礎となっており、簡易修正された数字をもとに追加給付が始まっている。

毎勤データの修正は、雇用・賃金・労働時間の分析だけでなく、生産性に関する実証研究にも影響が及ぶ。労働生産性や全要素生産性(TFP)を計測する際、労働投入量はマンアワーを用いるのが望ましい。そして、一般の企業統計において労働時間は調査されていないため、毎勤の産業別労働時間データを利用することが多いからである。しかし、毎勤データの「再集計値」は「復元に必要なデータ等が存在する」2012~2017年について公表されたが、現時点において2004~2011年は「従来の公表値」しか存在しない。

生産性向上は政府の経済成長戦略の中心に位置する重要な政策目標であり、毎勤データ修正の影響が量的にどの程度なのか、どのような産業で影響が大きいのか、これまでの日本企業・事業所のデータを用いた実証分析の結果をどの程度左右する可能性があるのか、検討する必要がある。

2. 分析の概要

本稿は、「毎月勤労統計調査」(毎勤)データの修正が、企業レベルの生産性分析に及ぼす影響を、2012~2016年の「経済産業省企業活動基本調査」のパネルデータを用いて定量的に検討する。具体的には、最近公表された2012~2017年度の「毎勤原表」に基づき、産業中分類での月労働時間データ(常用労働者30人以上の事業所)の「再集計値」(修正後)と「従来の公表値」(修正前)を使用して、計測される企業レベルの労働生産性(LP)、全要素生産性(TFP)の「水準」及び「変化率」にどの程度の違いが生じるのかを計算する。

また、修正前の前年の値と修正後の当年の値を使用してLP及びTFPの前年比変化率を計算した場合、修正後の数字だけを用いて計算した「真の変化率」と比較してどの程度の誤差が生じるかを計測する。これは、修正が行われていない2011年以前のデータを含む長期データで生産性分析を行う場合に、修正前後の断層による影響を推察するためである。

最後に、企業特性と生産性の関係についての過去の実証研究の結果が、今般の労働時間の修正によってどの程度影響を受けるかを評価するため、①企業レベルの輸出と生産性の関係、②企業の技術集約度と生産性上昇率の関係を事例としてシンプルな回帰分析を行う。

3. 分析結果の要点

第一に、平均的に見る限り、計測される生産性への量的な影響は小さい(表1参照)。これは、労働時間の修正率自体がさほど大きくないことから、当然予想される結果である。ただし、労働時間の修正率が大きい業種に属するパートタイム労働者比率が高い企業など、ごく少数ながら比較的大きな生産性の修正が生じる場合がある(図1参照)。第二に、労働時間修正前と修正後のデータを接続して生産性上昇率を計測した場合、修正前のデータのみを用いるよりも計測誤差が大きくなることが多い。第三に、確定的なことは言えないが、企業特性と生産性の関係についての過去の実証研究の結論が、今般の毎勤データの修正によって定性的に覆る可能性は低い。

「企業活動基本調査」以外の企業統計、事業所統計を使用する場合でも、毎勤の労働時間データを利用する場合には同様の問題が生じる。生産性向上が重要な政策課題となっている中、エビデンスに基づく政策形成のためにも、2011年以前のデータも修正されることが期待される。

表:労働時間修正前後の平均生産性の差
(1) LP (2) TFP (3) LP変化 (4) TFP変化
全年次・全産業 0.07% *** 0.01% *** 0.02% *** 0.00% ***
2012 0.02% *** 0.00%
2013 0.05% *** 0.02% *** 0.02% *** 0.02% ***
2014 0.06% *** 0.01% *** 0.01% *** -0.01% ***
2015 0.09% *** 0.03% *** 0.03% *** 0.02% ***
2016 0.12% *** 0.02% *** 0.02% *** -0.01% ***
製造業 0.03% *** 0.00% *** -0.01% *** 0.01% ***
電力・ガス 0.00% 0.00% 0.00% -0.02% ***
卸売業 0.07% *** 0.02% *** 0.03% *** 0.01% ***
小売業 0.05% *** 0.01% *** 0.02% *** 0.02% ***
情報通信業 0.24% *** 0.12% *** 0.17% *** -0.01% **
サービス業 0.06% *** 0.01% *** 0.02% *** -0.01% ***
その他 0.18% *** 0.00% 0.01% 0.02% ***
(注)「企業活動基本調査」2012~2016 年の企業データによる計測。LP、TFP の水準は名目値、変化率(前年比)は実質値を使用。数字は修正後の生産性-修正前の数字(対数)をパーセント換算したもので、プラスの値は生産性が上方修正されることを意味。***, **は1%、5%水準で有意。
図1:修正前データによるTFPの計測誤差の絶対値の分布
図1:修正前データによるTFPの計測誤差の絶対値の分布
(注)横軸は対数表示なので、0.01は近似的に1%の誤差を意味。