執筆者 | 村田 啓子 (首都大学東京)/堀 雅博 (一橋大学) |
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研究プロジェクト | 労働市場制度改革 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
人的資本プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「労働市場制度改革」プロジェクト
経済成長の減速や少子高齢化など、日本における雇用を取り巻く環境には大きな変化がみられる。年功賃金や長期雇用からなる「日本的雇用慣行」は日本の経済成長を促す重要な仕組みの1つとみなされてきたが、環境変化が進む中で「日本的雇用慣行」にも変化が生じていることが近年指摘されるようになった。本研究では、年功賃金と長期雇用の制度的補完性に着目し、賃金プロファイルのフラット化が雇用労働者の早期離職を加速させている可能性を実証的に分析している。
年功賃金と長期雇用の間の制度的補完性が重要であるとすれば、賃金プロファイルのフラット化は、被雇用者側からみると、長期雇用(すなわち一旦就職した企業に継続雇用されること)のメリットの低下を意味するため、賃金プロファイルのフラット化が顕著な分野(例:業種、職業)で雇用期間の短期化がみられるはずである。ただ、その検証にはある程度長期間にわたる(長期勤続した場合に稼得できる生涯賃金が推定できる程度の)賃金データが必要となる。本研究では、「ねんきん定期便」から得られる個々人の長期にわたる賃金履歴情報を調査した「くらしと仕事に関するインターネット調査(LOSEF)」を活用し、1961年以降に入職した雇用者の長期にわたるパネルデータを用いて分析した。
日本的雇用慣行のコアとなる新卒正規男性の賃金プロファイルと残存率を世代別にみると、賃金プロファイル傾きの低下と早期離職が同時進行していることが分かる(図1)。また、賃金プロファイルの変化と新卒から5年残存率の変化を属性(企業規模・業種・学歴)別にみると、80年代半ば以降に入職した世代では両者の間に賃金プロファイルのフラット化が大きいと残存率低下も加速する傾向がみられる(図2)。さらに、個人や勤務先企業の属性をコントロールしても、賃金プロファイルの傾き(現在までに獲得した賃金に対する将来にわたり獲得できると予想される賃金の比)と早期離職率の間には負の関係があるとの結果が得られた(表)。こうした関係は分析の対象者を日本的雇用慣行の中核に位置すると考えられる大卒大企業雇用者に限定しても同様であった。本稿の結果は、今後更に賃金プロファイルのフラット化が進む状況では、早期離職率が高まり、日本的雇用の特徴を有する雇用下にある個人の割合は今後も低下していく可能性を示唆している。