執筆者 | 縄田 和満 (ファカルティフェロー)/森野 雄貴 (野村證券株式会社)/木村 もりよ (一般社団法人パブリックヘルス協議会) |
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研究プロジェクト | エビデンスに基づく医療に立脚した医療費適正化策や健康経営のあり方の探求 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
マクロ経済と少子高齢化プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「エビデンスに基づく医療に立脚した医療費適正化策や健康経営のあり方の探求」プロジェクト
わが国においては医療費の高騰が続いており、2015年度は42兆円を超えるまでになっている。さらに、人口高齢化や医療の高度化によってさらにこれらが急増することが予想されている。これに対応するためには、医療資源の効率的な利用が必要不可欠となっている。このためには、患者ばかりでなく、健康な人間を含めた日本人全体の健康状態を長期的に観察する必要がある。しかしながら、健康な人間は、自主的には病院へ行かないため、通常その健康状況を調べるのは困難であり、諸外国の例をみても多額の費用をかけて調査を行ってきているのが実情である。また、これらの調査数も精々数万人程度、調査項目も限られたものとなっている。一方、わが国では40歳以上の労働者は労働安全衛生法によって原則年一度の健康診断の受診を義務付けられており、数千万といったこれまでに分析されたデータとは比較にならない大きさのデータがすでに存在する。
医療費は、下図に示すように、医療費を全く使わない個人がいる一方、100,000点(通常は1点10円)を超える個人がいるように、個人ごとの格差が非常に大きい。
本論文では、ある健康保険組合から提供された健康診断とレセプトのデータを統合したのべ15,580人分のデータベースを使い、健康診断の各データと医療費の相関関係の分析をpower transformation tobit model を用いて行った。特に、代表的な4つの生活習慣病(糖尿、高血圧、脂質異常、高尿酸血)の医療費への影響について分析し、生活習慣病に関しては、対象者が生活習慣病を有する場合、予想通り、医療費が高くなることがほとんどのモデルにおいて認められた。また、生活習慣病の患者がその治療薬を服用している場合においても医療費が高くなっている。「糖尿病」の場合、他の3つの生活習慣病より医療費が高くなる傾向が認められた。さらに、これらの患者が「脳血管疾患」、「心血管疾患」、「腎不全・人工透析」を既存症として有した場合、特に医療費が高額になることが認められた。特に、「糖尿病」を含む複数の生活習慣病を有し、かつ「腎不全・人工透析」である患者の場合、医療費は著しく高額になり、平均でも100,000点を超え、健常者の13.6倍もの水準となる場合があることが示された。医療資源の有効な利用のためには、生活指導等を通じた生活習慣病の防止と共に、早期治療の実施により生活習慣病患者がより重篤な疾患となるのを防ぐための施策の重要性が示唆された。