ノンテクニカルサマリー

日本型『同一労働同一賃金』改革とは何か?―その特徴と課題

執筆者 水町 勇一郎 (東京大学社会科学研究所)
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「労働市場制度改革」プロジェクト

2018年6月、「働き方改革関連法」が成立した。この「働き方改革」の柱の1つは「同一労働同一賃金」の実現である。しかしこれは、同一の労働に対し同一の賃金を支払う「職務給」制度の導入を強制しようとするものではない。日本の「同一労働同一賃金」改革とは、そもそもどのような内容のものなのか。それは何を目的としているのか。そこには日本的な特徴があるのか。この改革に伴ってどのような課題が生じる可能性があるのか。本稿では、この日本の「同一労働同一賃金」改革の内容、趣旨、特徴および課題を、労働法学の観点から明らかにし、本改革を正確な理解の下で進めていくための道筋と課題を明らかにしている。

日本型「同一労働同一賃金」の最大の特徴は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の「均等」待遇のみならず「均衡」待遇が法的に求められている点にあり、この点は世界でも先例的な意味をもつものである。この点を含め、日本の「同一労働同一賃金」改革は、欧州の法原則(下記図表参照)とどのような点で類似し、どのような点で異なっているのかを以下のように明らかにしている。

類似点としては、第1に、パートタイム労働、有期契約労働、派遣労働という3つの雇用形態を基本的に同一の規制の下に置き、正規・非正規雇用労働者間の待遇格差問題を包括的に解決していこうという方法をとっていること、第2に、文字通りの「同一労働同一賃金」ではなく、法的ルールとして、より広く賃金以外の労働条件を含む待遇一般を射程に入れ、それぞれの待遇にあった多様な要素を考慮に入れることができる枠組みを採用していること、第3に、具体的な判断において、それぞれの待遇ごとにその目的・性質に照らして待遇の相違の違法性(不合理性)を判断するという方法をとっていること、である。

日本の独自性としては、第1に、法的ルールとして、「客観的理由のない不利益取扱いの禁止」ではなく「不合理な待遇の相違の禁止」としている点、第2に、日本では、基本給について「同一労働同一賃金」(職務給)を必ずしも原則としておらず、職務給、職能給、成果給、勤続給などいかなる基本給制度をとるかは、企業や労使の選択に委ねるものとされている点、第3に、日本では「均等」待遇だけでなく「均衡」待遇の確保が求められている点(「均等」待遇とは前提が同じ場合に同じ待遇を求めること、「均衡」待遇とは前提が異なる場合に前提の違いに応じたバランスのとれた待遇を求めること)、がある。

表:欧州の法制度(EU、ドイツ、フランス)
表:欧州の法制度(EU、ドイツ、フランス)