ノンテクニカルサマリー

労働時間法制改革の到達点と今後の課題

執筆者 島⽥ 陽⼀ (早稲⽥⼤学)
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「労働市場制度改革」プロジェクト

「働き方改革実行計画」は、労働時間制度について長時間労働の抑制と柔軟な労働時間制度の拡充を掲げ、「働き方改革関連法」によって、長時間労働抑制策として時間外労働の上限規制の導入および高度プロフェッショナル制度の創設が実現している。しかし、今回の改正が労働時間制度の完成形をいうわけではなく、今後に残された課題も大きい。以下では、これまでの労働時間制度に関する立法政策の到達点を歴史的に振り返るなかで、今後の労働時間制度の立法課題を提示する。

第一に、労働時間の上限規制については、今回の時間外労働の上限規制の水準を出発点として、労使が自主的に特例の必要のない働き方を実現するような仕組みを設けて実質的な労働時間の短縮を図るべきであろう。

また、総実労働時間を規制する仕組みを導入すべきである。具体的には、週当たりの労働時間の上限を定めるとともに、勤務間インターバル制度(原則として11時間)を義務化し、1日の労働時間の上限を原則として13時間とする必要がある。

第二に、年休を本来の趣旨である1労働週単位の長期休暇の制度とするために、労働者の時季指定方式から使用者の時季指定方式に抜本的に変更し、2労働週の連続した休暇の付与を義務付け、同時に、病気休暇など労働者に必要な休暇制度を充実させる。

また、休日についても、定期的な休日を保障しない現行の変形休日制を改め、法定休日を特定することを義務付け、かつ法定休日についての休日振替を原則として禁止する必要がある。

第三に、管理監督者制度及び裁量労働制など整理して、新しい柔軟な労働時間制度を実現する。その際に労働時間の上限規制が社会的に受容されてきているのに対し、柔軟な労働時間制度の必要性については、社会的受容度が低い事実を踏まえ、積極的に議論を提起する必要がある。この点では、労働者の健康の確保をその仕組みの中に内在化させる必要がある。具体的には、労働時間管理と割増賃金制度とを切り離し、後者を適用除外する。そして、健康が確保される一定の枠内で、定型的な労働時間規制から離れた柔軟な働き方を可能とする。健康確保措置については、労働時間の総量規制や休暇、休日、勤務間インターバル制度だけではなく、労働者の健康管理に直接対応する健康診断などの措置も重要である。

第四に、事業場単位で労働時間等の適正化を実現するために、労使による恒常的なコミュニケーション組織、例えば労働時間等設定改善委員会の設置の義務化によって、労働時間等の改善に関する実施計画を立案し、その実施状況を監視するというPDCAサイクルを確立する必要があろう。