ノンテクニカルサマリー

職業訓練法人の課題:NPO政策の観点から

執筆者 初谷 勇 (大阪商業大学)
研究プロジェクト 官民関係の自由主義的改革とサードセクターの再構築に関する調査研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究(第四期:2016〜2019年度)
「官民関係の自由主義的改革とサードセクターの再構築に関する調査研究」プロジェクト

非営利法人政策の進展と公共サービスの自由主義的改革

2018年は、1998年の特定非営利活動促進法(NPO法)制定から20年、民法制定以来110年ぶりに改革された2008年の新公益法人制度施行から10年を迎え、わが国の非営利法人政策にとっては1つの画期の年であった。また、この20年間は、2000年代以降の国・地方を通じた公共サービスの自由主義的改革に連動した、各種法人の統廃合や官民協働を支える制度の整備が進んだ。

本論では、2017年度の第4回のRIETIサードセクター調査の結果も踏まえながら、これまでNPO政策の観点からほとんど関心を払われることがなかった「職業訓練法人」について、初めて深く考察を行うとともに、主務官庁と非営利法人の今後のあり方について検討した。

職業訓練・職業能力開発政策の分野においても、職業訓練等のサービスをより効率的で質の高いものとするうえで、民間企業など民間営利セクターの役割の振興とともに、従来の行政担当部局とサードセクター組織との間の規制、委託、補助などの官民関係を、多様な提供主体の間の透明で自由な競争と利用者の選択を促進する方向で抜本的に改革することが期待されている。

非営利法人制度改革のトレンド

明治以来の旧公益法人(民法第34条法人)制度では、民法は、多様な政策・行政分野において活用できる公益法人の根拠規定を定め、公益・非営利法人の一般法としての位置付けにあった。各分野を所管する主務官庁は、所管分野において、法人税制上の優遇と連動した公益法人の設立許可を行ない、官が担う行政サービス提供を、民の立場から補充、補完する役割を、それらの公益法人に公認していた。

そうした時代に、特定分野を所管する主務官庁や、その分野で活動する民間非営利団体は、所属する分野のさらなる振興、発展を目指し、民法第34条法人の活用に留まらず、より当該分野に特化して活用しやすい公益・非営利法人類型を求めるようになる。それらの要請に応える方法として、1つには、個別分野法を制定し、その一部に当該分野に特化して活用し得る非営利法人の根拠規定を定める方法が採られた(学校法人、社会福祉法人、更生保護法人など)。職業訓練法(1969年)に基づく職業訓練法人も、この流れに連なる。もう1つの方法としては、個別分野に対応する非営利法人法を、直接制定する方法が採られた(宗教法人など)。

一方、1995年の阪神淡路大震災を契機として、市民公益活動の持続的な組織基盤として、多様な設立目的に沿って活用することのできる公益・非営利法人を、旧公益法人よりも簡易に設立することのできる根拠法として、特定非営利活動促進法(NPO法)(1998年)が民法の特別法として制定された。また、2006年の民法改正と公益法人制度改革三法の制定により、民法は公益法人に関する一般法(根拠規定)を喪失し、法人通則(5箇条)のみを定める法人基本法にとどまるものとなり、法人類型ごとの個別の法律は、法人根拠法となった。

こうした動向のポイントは、①公益・非営利法人における一般法・特別法区分を消失(民法改正)させたが、②分野を特定した公益・非営利法人の個別根拠法は並存(従来の特別法法人の存続)しているなか、③公益・非営利法人の一類型(特定非営利活動法人)については、分野を特定しつつも数次の改正により分野を拡張させることにより、分野限定性を希薄化(特定非営利活動促進法)させる一方で、④分野を特定しない、公益・非公益不問の非営利法人の根拠法(一般社団・財団法人法)を設けた点にある。

③で分野限定を希薄化させ、④で分野不特定を原則としたことからは、法人根拠法レベルでは分野を限定・特定しない方向へ、また、個別分野の選択は法人格選択とは切り離して考える方向に改革の趨勢が向かっていることがみてとれる。つまり、ある分野を担うのは必ずこの法人格でなければならないというように、分野と法人格を固定的に関連づける考え方から、ある分野を担うのに最も適切な法人格はどれかという組織選択(それらが複数あるとすれば、組織併用)の発想へ意識の変化がみられるといえる。言いかえるならば、与えられる法人格から、選び取り使いこなす法人格への変化である。

職業訓練法人の課題

本論では、ある特定分野(職業訓練等)を所管する主務官庁が、当該分野で活動する民間非営利団体等とともに、個別分野法(職業訓練法)を制定し、その分野に特化して活用するための非営利法人(職業訓練法人)の根拠規定を定めた場合を取り上げている。そのような場合に、法制定後の政策需要の変化に応じて、個別分野法の改正(職業訓練法の改正、職業能力開発促進法に改名)が繰り返されながらも、職業訓練法人の根拠規定は変えることなく維持された結果、個別分野法の目的は大いに拡充され(職業能力開発へ)、目的の担い手が官民に幅広く想定される中、職業訓練法人に対する役割期待が限定されている結果、そのプレゼンスが法の想定する担い手全体の中で相対的に大きく低下していると見られるとき、主務官庁と非営利法人は、どのような対応をとることが望ましいであろうかという問題である。

その答として、本論では、職業訓練法人のプレゼンスを向上・拡充させる道として、1つには、非営利法人法制再編の影響を受ける中での職業訓練法人の存在意義の向上を、2つには、教育訓練サービス市場における他のプロバイダーとの差別化を説いている。その際、現行法上期待されている役割の範囲で運用改善を図るだけではなく、拡充した法の目的に照らし、現行法上期待されている役割を超えて、新たな役割を割り振ることが、上記の非営利法人制度改革や自由主義的改革のトレンドにも沿う「再構築」の道ではないかと提言している。

110年ぶりの公益法人制度改革により、旧公益法人制度の主務官庁制は廃止されたが、官民関係一般において政府・諸官庁の役割が後退し空洞化するわけではないことから、政府・諸官庁は、担当分野において成果をあげうる官民協働のあり方や、そこでの自らの役割や責務を再認識し取り組む必要があり、サードセクター組織である非営利法人等と新たな協働・分担関係を築いていく必要がある。

図:現行法下での認定職業訓練の主体:業務を独占しない④職業訓練法人に新たな役割が期待される
図:現行法下での認定職業訓練の主体
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(注)図中の〇番号は、60年職業訓練法改正=職業能力開発促進法第13条に「事業主等」として規定されている順を示す。④~⑥は「職業訓練団体」。
(出所)筆者作成。