ノンテクニカルサマリー

輸入競争が企業組織に及ぼす影響について:日本の企業レベル・データによる実証分析

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「貿易自由化政策の効果に関する研究:90年代以降の日本に関するミクロデータを用いた分析」プロジェクト

英国でEU離脱の国民投票が可決され、米大統領選挙で反グローバリズムを掲げるドナルド・トランプ氏が選出されたことに象徴されるように、グローバル化が雇用に及ぼす影響が大きな注目を集めている。わが国においてもTPP参加の是非を巡って、さらなる貿易・投資の自由化について大きな論争になったことは記憶に新しい。こうした論争の背後には、目に見える形で低所得国からの輸入が拡大し、企業の海外進出の拡大と国内での工場閉鎖が広がっているという事実がある。実際、近年の欧米の研究では中国からの輸入が雇用に負の影響を及ぼしていることが示されている。

本研究では、輸入競争圧力の高まりに対して企業がどのように対応しているかを明らかにするため、日本の企業レベル・データを用いて低所得国からの輸入の増加と企業の部門構成の変化について実証的に分析を行った。従来の輸入競争の影響に関する分析では産業レベルのデータを用いて産業間シフトに注目する研究が多い。実際に企業は輸入競争圧力の高まりに対して製品の高付加価値化や新製品の開発、あるいは新事業への進出などで対応しており、また、こうした対応は企業間でも異なると考えられる。近年では、生産部門を海外に移管する一方で国内では研究開発に特化する企業や、製品をGPSなどの高機能センサーでモニターすることにより高度なサービスを提供する企業も増えてきており、本研究ではこうした非製造部門への展開について企業レベルの部門別従業者数のデータを用いて分析を行う。

まず、わが国の製造業企業の事業構成の変化について確認しておこう。図1は、企業活動基本調査(経済産業省)の調査票情報を用いて計算した1997年と2014年における従業員規模別にみた製造業企業の非製造部門従業者比率である。企業活動基本調査の調査対象は従業員規模50人以上、あるいは資本金3000万以上の企業であり零細企業は含まれていない点には注意が必要であるが、部門別の従業者数など部門構成の変化が捕捉できる質問項目が用意されている。図1の全体平均(Average)をみるとわずかに上昇しているに過ぎないが、企業規模が大きくなるほど、非製造部門業者比率が増加していることがわかる。

図1:企業規模別にみた製造業企業の非製造部門従業者比率
図1:企業規模別にみた製造業企業の非製造部門従業者比率
出所:企業活動基本調査(経済産業省)に基づき著者作成
参考文献
  • Bernard A., and Fort, T., 2015, Factoryless Goods Producing Firms, The American Economic Review, 105(5), 518-523.
  • Crozet, M., Milet, E., 2017, Should Everybody be in services? The Effect of Servitization on Manufacturing Firm Performance, Journal of Economics & Management Strategy, 26(3), 820-841.
  • Morikawa, M., 2016, Factoryless Goods Produces in Japan, Japan and the World Economy, 40, 9-15.