ノンテクニカルサマリー

弁護士と公認会計士は取締役としてどのような機能を果たしているのか:企業業績とボラティリティへの影響

執筆者 酒向 真里 (オックスフォード大学)/久保 克行 (早稲田大学)
研究プロジェクト 企業統治分析のフロンティア
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

法と経済プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「企業統治分析のフロンティア」プロジェクト

本研究は、日本企業の取締役会において弁護士および公認会計士がどのような役割を果たしているかを分析したものである。具体的には、2004年から2015年の日本の上場企業のデータを用いて、これらの取締役が企業の業績およびリスクテイクに与える影響を分析している。特に、規制産業および非規制産業においてこれらの取締役の役割がどのように変化するのかに注目した。

弁護士および会計士のような専門家に注目したのはいくつかの理由がある。まず1つ目は、取締役における弁護士および会計士が増加しているということである。グラフは、取締役として弁護士もしくは公認会計士がいる企業の割合を2004年から2015年の期間で示したものである。このグラフから分かるように、2004年には上場企業の2.67%において弁護士もしくは取締役がいたのに対して、この比率は2015年には17.09%まで増加している。

よく知られているように、2015年のコーポレートガバナンスコードの導入を1つの契機として、多くの上場企業が社外取締役を導入した。ここで重要なのは、どのような人が取締役として望ましいのか、という点である。このことを考えることが、本研究で弁護士や公認会計士に注目した2つ目の理由である。

弁護士や会計士などが取締役においてどのような役割を果たしているかについて、いくつかの議論がありうる。極端な意見の1つは、弁護士や会計士はお飾りである、というものである。一方、弁護士や会計士はその専門性及び独立性を活用して企業価値にプラスの影響を与えるという見方もあり得る。

本研究では、取締役会における弁護士・会計士の役割を「助言者」「警官」「企業家」の3つに分類して、どのような状況のもとでどのような役割を果たしているかについて分析した。分析の結果、弁護士・会計士がいる企業では高いROAやトービンのqが達成されていることが示された。また、規制産業においては、弁護士・会計士の存在が企業のリスクテイクを促進する効果があることが示された。

表は、専門家の導入前後でボラティリティがどのように変化したかをDifference in Differenceの手法を用いて分析したものである。全サンプルを用いた分析及びサンプルを規制産業と非規制産業に分割した分析が示されている。ここで示されているように、規制産業では専門家の導入がボラティリティに対して正の効果を持っているのに対して非規制産業ではこのような効果は観察されない。この結果は専門家の導入は規制産業においてリスクテイクを促進するという考え方と整合的である。

これらのことは、今後、どのような人が取締役として望ましいか、ということを議論する際に重要な結果と考えることができる。

グラフ:弁護士・公認会計士が取締役に含まれる会社の割合
グラフ:弁護士・公認会計士が取締役に含まれる会社の割合
表