ノンテクニカルサマリー

中国経済の減速が貿易相手国にどう影響するか?

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

マクロ経済と少子高齢化プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「East Asian Production Networks, Trade, Exchange Rates, and Global Imbalances」プロジェクト

中国は、世界第二の経済大国であり、東アジアのサプライチェーンの最終リンクであり、天然資源の消費大国である。中国の年間輸入額は1兆ドルを超える。多くの企業が利益の大部分を対中輸出に依存している。中国経済は、1990年代初めから2桁近い成長を遂げてきたが、今は混乱に直面している。正味の資本移動は2014年以降加速し、通貨の下落圧力を生み出した。鉄鋼、造船、化学を含む複数のセクターで生産能力が過剰になった。国外における貿易戦争と経済問題が中国経済にとって逆風となっている。中国の貿易相手国からの輸入は今後どのような影響を受けるだろうか?

この問いに答えるためには、異なる種類の輸入と異なる国を区別して考える必要がある。例えば、加工用輸入品は再輸出用商品の生産のためにのみ使用され得るが、通常の輸入品は主に国内市場向けである。加工輸出品は、不均衡なほどに高所得国が輸出先となっている。したがって、加工用輸入は、最終財を購入する高所得国の需要状況と為替レートによって左右される一方で、通常の輸入は、中国国内の需要状況と為替レートによって左右されるだろう。鉄鉱石などの原材料を輸出するオーストラリアやブラジルなどの国は、天然資源を必要とする鉄鋼などのセクターの減速に影響を受けやすいだろう。

中国経済へのエクスポージャー(リスクにさらされている度合い)を解明するため、本稿では重力モデルを用いる。重力モデルは、距離や経済規模をコントロールする。重力モデルは、二国間貿易フローを説明する上で有用である。図1および2は、2016年の対中国輸出実績値と重力モデルによる輸出予測値の差を示したものである。図1は加工輸出の結果、図2は通常の輸出の結果を示す。図において値が対角線より上にある場合は輸出実績が予測値を上回ったことを意味し、対角線より下にある場合は輸出実績が予測値を下回ったことを意味する。結果と対角線との垂直距離は、予測を上回ったまたは下回った度合いを示す。図1によれば、日本、韓国、台湾などの東アジア・サプライチェーンの国は、中国に再輸出用の部品を予測値を上回って輸出していることが明らかである。図2によれば、オーストラリア、ブラジル、サウジアラビアなどの一次産品生産国およびドイツや日本などの高度な機械の生産国は、中国国内市場に予測を上回る財を輸出していることが示唆されている。

本稿では次に、中国の輸入弾力性を調べた。加工貿易に関しては、加工用輸入と加工輸出の間に緊密な関係が認められること、ならびに為替レート弾力性が有意ではないことが明らかである。通常の貿易については、所得弾力性が1.6、為替レート弾力性も正しい符号条件であり、0.4に相当する。これらの結果から、先進国の要因による加工輸出の減少と中国GDPの減少が中国の輸出にとって重要な問題となってくることが示唆される。人民元安はその規模が大きい場合にのみ影響を生むだろう。

こうした研究結果から、政策に関していくつかの教訓が得られる。輸出品に一次産品の大半が含まれているオーストラリアやインドネシアなどの国は、中国の景気減速によって大きな影響を受ける恐れがある。そうした諸国は、より多くの完成品を含めるよう輸出基盤の多様化に努めるべきである。インドネシアはまた、インフラと人的資本の整備と腐敗防止に努めてグローバル・バリューチェーンとの結びつきの強化を目指すべきである。グローバル・バリューチェーンに加わることで、国内の労働者は新たな技能を習得でき、国内の企業は新たな経営技術を学ぶことができて、技術の向上が促進されるだろう。

日本、韓国および台湾は、とりわけ加工貿易の減速のリスクにさらされている。近年の中国の高い投資レベルにより中国企業は、輸入部品に代わって中国製の部品を使用できるようになったため、これらの課題は深刻化している。日本、韓国および台湾の企業は、自国製品の需要が中国で維持されるよう、最先端の中間財のイノベーションと生産に取り組むべきである。

中国を含むすべての東アジアおよび東南アジア諸国は、加工貿易に関与する多国籍企業その他の企業が新たな需要源を見つけ、西側諸国の需要への依存度を軽減できれば、利益を得るだろう。

多様化がリスク軽減につながることは、経済学で古くから言われてきたことである。中国をはじめ世界的な景気減速に直面する中、これはとりわけ適切な格言であると言える。企業各社そして各国は、輸出基盤を多様化し、貿易相手国を多様化して、中国や他の単一の国へのエクスポージャーを緩和すべきである。また、比較優位のあるニッチを見付け、そうした分野に特化すべきである。

図1:2016年の中国への貿易相手国からの加工用輸出実績と予測
図1:2016年の中国への貿易相手国からの加工用輸出実績と予測
注:輸出予測は、1992年から2016年までの期間における対中国輸出主要26カ国の貿易について重力モデルを用いて決定した。縦軸は輸出実績(百万米ドル)、横軸は輸出推計値(百万米ドル)。
出典:CEPII-CHELEMデータベースおよび著者による計算。
図2:2016年の中国への貿易相手国からの通常の輸出実績と予測
図2:2016年の中国への貿易相手国からの通常の輸出実績と予測
注:輸出予測は、1992年から2016年までの期間における対中国輸出主要26カ国の貿易について重力モデルを用いて決定した。縦軸は輸出実績(百万米ドル)、横軸は輸出推計値(百万米ドル)。
出典:CEPII-CHELEMデータベースおよび著者による計算。