ノンテクニカルサマリー

継続注記、ダウンサイジングと企業退出

執筆者 猿山 純夫 (日本経済研究センター / 法政大学)/胥 鵬 (法政大学)
研究プロジェクト 企業統治分析のフロンティア
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

法と経済プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「企業統治分析のフロンティア」プロジェクト

M&Aと同様に、企業倒産にも波がある。90年代後半から、日本は銀行破綻とともに上場企業倒産の波を経験した。とりわけ、銀行の突然破綻が日本の会計制度に対する国際不信を招き、1999年3月期から英文財務諸表に日本の会計基準と監査基準が国際基準と異なるという旨の警句(Legend Clause)の記載が当時のアメリカの5大会計事務所に要請されるようになった。以降、会計制度の一連の改革、いわゆる会計ビックバンが行われた。本論文は、2003年3月期に適用された継続企業の前提に関する情報開示(以下、原則として継続注記とする。)を取り上げて分析する。

日本の会計ビッグバン以前から、米国やベルギーなどで採用されていた監査人による継続企業の前提に関する監査意見、イギリス、カナダ、オーストラリアにおいて採用されていた経営者による継続企業の前提に関する情報開示などの国際的な制度と実務が挙げられる。監査委員会報告第74号『継続企業の前提に関する開示について』(平成14年11月6日日本公認会計士協会)が「国際的な実務慣行等を参考に」取りまとめられたため、日本の継続注記の制度と実務が国際基準へ収斂したことが、重要な事例である。これと整合的に、収益性(例えば、EBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization);税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益(注1))が低い、負債比率が高い、時価総額が小さい、株価が乱高下かつ低迷するといったことが諸外国の継続前提の疑義がある企業に共通する要因であることが、推定結果をまとめた下表から見て取れる。他方、日本特有の人員削減の閾値の連続二期赤字、配当規制にかかわる利益剰余金マイナス及び上場廃止基準の債務超過も継続注記の重要な要因になる。このことから、継続注記がステークホルダー間の利害を調整する役割を果たすと考えられる。ダウンサイジングに対する効果について、簡単な回帰分析結果から分かるように、継続注記企業の倒産割合が有意に高いほか、大幅な資産売却、負債削減と人員削減が行われている。下表の継続注記の内生性を考慮した処置群平均処置効果(average treatment effect on treated)の推定結果の部分は、これらの効果の頑健性を示す。

表
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既存研究では、連続二期赤字時の人員削減はよく指摘されていたが、長期業績低迷企業の増加とともに利益剰余金マイナス時や債務超過に陥った時も引き続き人員削減が行われ、とりわけ、継続注記直後の大幅な人員削減が行われていることを指摘したことは本研究において、特筆すべきである。われわれの分析は、会計学だけではなく、労働経済学、企業ファイナンスとコーポレート・ガバナンスの研究にも重要な貢献といえよう。また、継続注記企業の収益性が一層悪化する点から、今後も早期抜本ダウンサイジングを促す施策が欠かせないという政策的含意も重要である。

脚注
  1. ^ 『SMBC日興証券HP 』初めてでもわかりやすい用語集