ノンテクニカルサマリー

冷蔵庫の省エネ効率性に対する支払意思額と主観的割引率の推定:POSデータを活用した「統一省エネルギーラベル」の評価

執筆者 小西 葉子 (上席研究員)/齋藤 敬 (経済産業省)/石川 斗志樹 (経済産業省)
研究プロジェクト 産業分析のための新指標開発とEBPM分析:サービス業を中心に
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第四期:2016〜2019年度)
「産業分析のための新指標開発とEBPM分析:サービス業を中心に」プロジェクト

エネルギー資源が豊富ではない日本にとって、省エネルギー化の推進は本質的な課題の1つといえる。資源エネルギー庁の報告によると、わが国の家庭の消費電力は1990年代と比較して15%増加しており、背景には家電製品の種類の増加と普及が考えられる。家庭の省エネには省エネ家電の導入が効果的であるが、その実現には個々人の意識変革に加えて、強い推進力を持つ国の施策が欠かせない。わが国では製造企業に向けて、1998年にトップランナー制度を導入した。これは、消費エネルギーが多い製品について、目標年度までに全ての製品が基準となる高省エネ製品の効率水準に達することを義務付ける非常に厳しい制度である。一方2006年より小売業者に対して、消費者とのタッチポイントとして図1の「統一省エネルギーラベル」を製品に貼ることを努力義務としている。このラベルには省エネ指標として、①年間消費電力量(kWh)、②省エネ達成率(%)、③達成率をわかりやすく★の数で表した多段階評価の3種がある。

図1:統一省エネルギーラベル
図1:統一省エネルギーラベル
出典:省エネ性能カタログ 2015年、2016年冬版(資源エネルギー庁)から抜粋

ここでは家庭内での消費電力量が一番多い(14%、2015年)、冷蔵庫についてそのエネルギー効率指標である①年間消費電力量(kWh)が消費者の省エネ製品選択に影響を与えているかを観察する。日本では、家電製品販売の50%は家電量販店がチャネルとなっており、なかでも冷蔵庫は総販売量の約76%が家電量販店での販売である。本稿ではこの家電量販店での販売のほぼ全てをカバーするPOSデータを用いて、冷蔵庫の価格決定の要因分解を行った。一般的に、冷蔵庫の価格は、詳細なスペック(容積、ドアの枚数、冷凍庫の位置、急速冷凍の有無など)、ブランド、デザイン、販売時期、販売場所で決定される。加えて、統一省エネラベルで強調されている、省エネ指標がこれらの条件をコントロールしてもなお、価格に影響を与えているのかを調べた。表1は冷蔵庫の省エネ性能への消費者の支払意思額である。結果では、例えば電力料金が一番高い近畿地方では、1kWhの省エネに消費者が193.8円の価値を見出している。電気料金の最も低い中部・北陸地方よりも約27円高く、省エネへの評価と電気料金に関連があることを示唆する。

表1:地域別電気料金、家電量販店数、省エネ1kWh当たりへの支払意思額
表1:地域別電気料金、家電量販店数、省エネ1kWh当たりへの支払意思額

さらに、省エネルギー政策と家計への耐久消費財の導入についての研究では、エネルギー効率性ギャップが多く議論されている。これは、使用期間中の節電効果による便益を考慮すると、省エネ製品を購入することが得策であるにも関わらず、省エネ投資を過小評価し、現在の得られる便益(価格差など)で購入を決めてしまうという問題である。この現在価値と将来便益の差は割引率の推定によって調べられる。表2はわが国の冷蔵庫の地域別・容積別の割引率の推定結果であり、4.3%〜7.8%であった。また、容積の違いによる差は1%ポイント未満であるのに対し、地域差は容積のサイズを通じて約3%ポイント程度となった(最小値は中部・北陸、最大値は関東・甲越)。1980年以降、冷蔵庫の割引率推定を行った先行研究では11%〜300%と割引率が高い傾向にあり、エネルギー効率性ギャップが数多く議論されてきた。しかし、われわれの計算した割引率は低く、公共投資の主観的割引率(日本4%、アメリカ6%)と遜色ない。つまり、消費者は冷蔵庫購入時に近視眼的に現在の製品価値のみに反応するのではなく、使用期間中に得られる節電便益を考慮した意思決定を行えており、省エネ指標は省エネ製品普及に貢献しているといえる。

表2:地域別・冷蔵庫の容積別の省エネの総便益に対する主観的割引率(%)
表2:地域別・冷蔵庫の容積別の省エネの総便益に対する主観的割引率(%)

今回のPOSでの分析を通じ、小売側の市場データのみではあるもののそのカバー率と速報性については目を見張る物があった。冷蔵庫の耐用年数が約10年とすると、あと2年ほどで2009-2010年度に行われた家電エコポイント制度時に購入した家庭の買い替え時期となる。大きな買い替え需要の際に、エネルギー効率性の高い製品の購入を促すためのラベル表示、消費者への説明努力、または全く新しい政策の立案が望まれ、その立案に本研究のエビデンスが活かされることを期待する。