ノンテクニカルサマリー

企業の先行き見通しの不確実性―法人企業景気予測調査のパネルデータによる分析―

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「流動化する日本経済における企業の国内経営と国際化に関する研究」プロジェクト

1. 背景

世界金融危機、大規模自然災害、為替レート変動、国際貿易に関する政策の予想外の変化など、企業にとって先行き見通しにはさまざまな不確実性が存在する。こうした中、経済主体が直面する先行きの不確実性が実体経済に及ぼす影響に関する研究が進展している。そして、不確実性が投資、生産、雇用などに対して大きな影響を持つことが明らかにされている。しかし、日本における実証研究は、「日銀短観」のオーダーメード集計結果を用いた筆者の分析(Morikawa, 2016)などごく少数であり、特に多数の非上場企業を含む企業レベルのミクロデータを用いた研究は稀である。

2. 分析内容

こうした状況を踏まえ、本稿は、日本企業を対象とした政府統計(「法人企業景気予測調査」)の企業レベルの四半期パネルデータ(2004年Q2〜2017年Q1)を作成・使用し、企業の先行き見通しの不確実性の実態およびそれが設備投資に及ぼす影響を分析した。

同調査は、業況などの先行きに関する設問への回答として、「上昇」「不変」「下降」という3つのほかに「不明」という選択肢が存在するのが大きな特徴である。この選択肢の存在は、事後的な予測誤差に基づく不確実性指標の有用性を減殺する要素だが、反面、この回答自体が企業の直面する不確実性を直接に示しているとも考えられる。そして、後述の通り、「不明」回答自体が企業の直面する不確実性を示す指標として高い有用性を持つことが、今回の研究で明らかになった。

3. 分析結果と政策含意

第1に、「日銀短観」をはじめ他のビジネス・サーベイとは異なり、この調査の事後的な予測誤差から計測される不確実性指標(MEANABSFE, FEDISP)は強い季節性を持っており、「不明」という選択肢が存在することが一因である。

第2に、「不明」回答割合は、株価のヴォラティリティ(日経VI)や政策の不確実性指標(EPU-Japan)と正の相関を持っているのに対して、事後的な予測誤差に基づく不確実性指標は、これらマクロ経済的な不確実性指標との相関が非常に弱い。

第3に、「不明」回答は、世界経済危機時に大幅に上昇し、その後も高止まりしている。

第4に、業況「不明」という回答は、次期・次々期の現実の設備投資に対する予測力を持っており、設備投資への負の影響は「確実に下降する」見通しよりも明瞭かつ大きい。量的には、先行き「不明」なとき、現実の設備投資は-4%〜-6%程度低くなる関係である(図1参照)。また、国内景況というマクロ経済環境の先行きよりも、当該企業自身の業況・売上高等の先行き見通しの不確実性が、設備投資に対して支配的な影響を持っている。

以上の結果は、ビジネス・サーベイの回答の選択肢の設定(「不明」「わからない」といった選択肢の有無)によって、事後的な予測誤差の計測結果には大きな違いが生じることを意味している。また、「不明」「わからない」などの選択肢がない場合でも、回収率が低い企業サーベイでは、回収率の変動自体が先行き不確実性を反映して動く可能性がある。業況などに関する企業サーベイの調査票の設計や調査結果の解釈に当たっては、こうした点に注意する必要がある。

先行き「不明」という回答は、事後的な予測誤差に基づく不確実性指標とは異なり、次期の調査結果を待つことなく利用可能であり、リアルタイム性の高い指標として有用性が高い。「法人企業景気予測調査」の場合、「不明」回答割合は、企業規模別、産業別に公表されている。景気の先行き判断に際して、企業が直面している不確実性を把握することが重要になっており、景気予測に携わる実務者においては、「不明」回答割合の動きに着目することも有益である。

図1:業況等の先行き不確実性が設備投資に及ぼす影響
図1:業況等の先行き不確実性が設備投資に及ぼす影響
(注)次期・次々期の自社業況、売上高、経常利益、国内景況「不明」と回答した場合の次期・次々期設備投資への影響を示す。
参考文献
  • Morikawa, Masayuki (2016), "Business Uncertainty and Investment: Evidence from Japanese Companies," Journal of Macroeconomics, Vol. 49, September, pp. 224-236.