ノンテクニカルサマリー

中国国有企業に対するEU集中規則の適用

執筆者 武田 邦宣 (大阪大学)
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第III期)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「現代国際通商・投資システムの総合的研究(第III期)」プロジェクト

中国国有企業による海外直接投資(FDI)は、原発事業、高速鉄道事業など戦略的な産業分野に関するものが多く、しばしば日本企業との競合が問題になる。それら中国国有企業は「企業」なのか「国家」なのか。中国国有企業と英国企業との企業結合にかかるEUのEDF/CGN/NNB事件決定(本決定)(2016年)は、同問題を考える上で、重要な示唆を与える事例である。

EUにおける企業結合規制(集中規則)では、国有企業に対する過剰および過小な規制を回避するために、加盟国国有企業を含む国有企業に対して、規制の特則(「単一の経済主体性」ルール)が設けられている。同ルールは、複数の国有企業について単一の経済主体性を認定した場合に、集中規則の適用を可能とするものである。本決定においては、(1)国務院資産管理委員会(SASAC)が、役員の選任、監督に関与するとともに、戦略的な投資の決定に介入し得ること、(2)法によりエネルギー産業について政府による集中的管理が規定されていることから、単一の経済主体性が認定された。

このように本決定は、複数の国有企業間に単一の経済主体性を認定した点において競争法上大きな注目を浴びる事例であるが、共産党による支配を通じて国有企業のみならず私有企業についても単一の経済主体性を認定できるとする見解(本件について過少規制を指摘する見解)もあれば、中国国有企業に関する単一の経済主体性の認定は、域内国有企業にかかるそれよりもゆるいとする見解(本件について過剰規制を指摘する見解)もある。

本決定は、中国企業による原子力産業への出資ということから、安全保障上観点からも注目される事例であった。対外直接投資について、米国が対米外国投資委員会によるコントロールを用意するのに比して、EUはそのような制度を有さず、これが中国企業によるEU企業の爆買いを促進したとの意見もある。このような意見に応えるかのように、EUにおいて新たな政策パッケージが公表されている。