ノンテクニカルサマリー

公共財の自発的供給と仮想通貨

執筆者 小黒 一正 (コンサルティングフェロー)/石田 良 (財務総合政策研究所)/安岡 昌也 (関西学院大学経済学部)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

人口減少・高齢化の進展が急速に進む中、社会保障費の膨張や恒常化する財政赤字により国の財政的な限界も明らかになりつつある一方、人口減少で地方も消滅の危機にあり、国や地方が担う公共サービスにさまざまな「綻び」が見え始めている。

近年の技術革新で急速に普及が進む「暗号通貨」(例:Bitcoin)のブロックチェーン技術といった新たなテクノロジーを活用し、必要な公共財や公共サービス等を市場メカニズム等で供給する政策的手段を拡充できないか。例えば、公共財の自発的供給と暗号通貨のマイニング報酬といった報酬体系(Proof of Work)を関連付けるメカニズムの構築も1つの方向性として理論的に考えられる。

このような問題意識に基づき、本稿では、公共財の自発的供給と仮想通貨のマイニング報酬といった報酬体系(Proof of Work)を関連付けるメカニズムが、公共財に関する「ただ乗りの問題」の解決に役立つ可能性を分析している。分析の結果、明らかになったことは以下の3点である。

まず、各個人が自己の選好を正直に申告する場合、公共財の自発的供給によっても、マイニング報酬を適切に設定することで、サミュエルソン条件(公共財の供給を1単位増やしたときに発生する便益の増分、すなわち限界便益の総計が、その供給に必要な追加的費用、すなわち、限界費用に一致するとき、公共財の水準は最適という意味)を満たすことができ、Nash均衡の下でもパレート最適な水準で公共財を供給できる可能性が理論的にある(命題2)。

だが、本稿のモデルでも、各個人が自己の選好について虚偽の申告を行う誘因をもち、マイニング報酬は上記の値から乖離してしまい、パレート最適な水準で公共財を供給できない問題が発生する可能性が理論的にある(例:命題3)。

しかしながら、納税者番号制度などで各個人の賃金を政府が把握可能であるという前提の下、本稿で提唱する枠組み(メカニズム)を導入すると、虚偽の申告をした個人に対して一定のペナルティを課すといった条件との関係で、合理的な各個人は真の選好を政府に報告する誘因をもつため、パレート最適な水準で公共財を供給できる可能性が理論的に高まる(命題4)。