ノンテクニカルサマリー

サービス業海外現地法人の生産販売ネットワーク

執筆者 Francesca SPINELLI (OECD)/Dorothée ROUZET (OECD)/張 紅詠 (研究員)
研究プロジェクト 流動化する日本経済における企業の国内経営と国際化に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「流動化する日本経済における企業の国内経営と国際化に関する研究」プロジェクト

背景

近年、訪日観光ブームなどで日本のサービス収支が改善しているが、製造業に比べてサービス産業の国際化(輸出や対外直接投資)がまだまだ遅れているのが現状である。政府の成長戦略の実現に向けて今後、海外市場の需要を取り込むためには、サービス産業のさらなる国際化を促進することが重要である。経済産業省では平成28年度に「グローバルサービス創出研究会」が開催され、筆者は委員として参加した。
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/mono_info_service.html#global_service

一方、先進国よりアジアを中心とした新興国では、サービス業に対する厳しい参入規制が存在している。サービス貿易規制が貿易コストと参入コストを高め、サービス貿易拡大の阻害要因となっている(Rouzet, Benz, and Spinelli, 2017)。

本稿は、既存の政府統計を利用してサービス業に属する現地法人の活動に注目し、製造業に属する現地法人と比較しながら、海外進出・海外売上の企業レベル、産業レベルおよび国レベルの決定要因について分析を行った。

観察事実

直接投資の目的は大まかに言うと、現地販売(Local sales)、企業内貿易(Intra-firm trade)、第三国への輸出(Export to third country)という3つの目的がある。本稿は、経済産業省「海外事業活動基本調査」2008年〜2014年の個票データを用いてこの3つの目的を分解し、現地法人の活動パターンを明らかにした。

第1に、現地法人の企業活動は地理的に集中し、進出先のマーケットに強く依存している。第2に、卸売、輸送機械、電子などの産業が現地法人の売上高の大半を占めている。また、アジアにある現地法人の売上高が最も高い。第3に、現地の顧客に財やサービスを提供する現地法人が多いが、同じ地域の他の国にアクセスするための拠点としての現地法人も少なくない(図1。例えば、下の図からマレーシア(MYS)にある現地法人が他のアジアの国にアクセスするための拠点(Export Asia)とての役割を果たしていることがわかる)。第4に、サービス業に属する現地法人は親会社から財やサービスを調達(企業内貿易)することが多いが、製造業の現地法人が現地から中間財を調達する傾向がある。

図1:現地法人売上の地理的分布
図1:現地法人売上の地理的分布
注:横軸は国や地域、縦軸は販売先別売上の割合を示している。ROWはその他の意味。
出所:経済産業省「海外事業活動基本調査」より筆者作成。

海外進出・売上の決定要因と含意

分析結果によれば、海外売上の決定要因は、企業規模や生産性などの企業特性だけでなく、進出先の市場特性、例えば、市場規模、日本からの距離、税制、労働市場、研究開発の水準、日本との自由貿易協定(FTA)の有無、関税や非関税障壁なども重要である。ここでは、とくにFTAと非関税障壁の影響について簡潔に触れたい。

FTAの海外進出への影響に関しては、日本とサービス貿易をカバーするFTAを結んでいる国や地域には、現地法人を作って進出する確率が高くなる。また、より包括的な内容が盛り込まれた場合、公平な市場競争、投資、資本の自由な移動、データの保護が確保されれば、日本企業にとってより有利な投資環境となる。

各国では、サービス産業は製造業よりもさまざまな参入規制が課せられている。経済協力開発機構(OECD)が、各国の参入障壁の高さを示すサービス貿易制限指標(STRI)を開発した。STRIは「外資規制」「人の移動規制」「競争規制」などに分類され、規制の度合を0から1の間で定量化(0が完全開放、1が完全閉鎖)している。われわれの分析によれば、サービス貿易規制度の高い国ほどサービス業現地法人の進出が少なく、逆に、より規制度の低い国ほど進出が多い。ただし、中小企業に比べて、規模の大きい、生産性の高い企業がそのサービス貿易と投資の障壁をクリアできることが分かった。これらの結果は、今後引き続きサービス産業の規制緩和に向けたルール整備や国際交渉、大企業より中小企業の海外進出を支援する政策を進めていくべきことを示唆している。

参考文献
  • Rouzet, D., S. Benz and F. Spinelli (2017), "Trading firms and trading costs in services: Firm-level analysis," OECD Trade Policy Papers, No. 210, OECD Publishing, Paris. http://dx.doi.org/10.1787/b1c1a0e9-en