ノンテクニカルサマリー

取引ネットワークが都市圏内の企業立地に及ぼす影響の実証分析

執筆者 織田澤 利守 (神戸大学)/大平 悠季 (鳥取大学)/Jos VAN OMMEREN (アムステルダム自由大学)
研究プロジェクト 経済集積の空間パターンと要因分析のための実証枠組の構築
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「経済集積の空間パターンと要因分析のための実証枠組の構築」プロジェクト

近年、企業間の取引関係と集積現象との関連性に着目した実証研究が盛んに行われている。Fujii et al. (2015) は、産業ペア間の投入-産出関係の強さが当該産業ペアの共集積要因として働くことを明らかにしている。また、Nakajima et al. (2013) は、企業間取引ネットワーク構造が産業集積に及ぼす影響について分析している。産業レベルの集積現象に着目し、比較的に広い空間範囲を対象とした先行研究に対して、本研究は都市圏内における企業立地に着目し、企業間の取引関係が及ぼす効果について実証的に検討する。

企業間取引ネットワーク(図1)において中心的な企業ほど、企業活動の中で多数の取引先企業との間の財の輸送や打ち合わせ、交渉などのミーティングを行うため、地理空間上でも利便性の高い中心的な地点に立地していることが考えられる。本分析では、広島大都市圏(図2)を対象として、東京商工リサーチの企業信用調査データに基づいて算出した取引ネットワークにおける中心性指標(Centrality)と地理空間における他企業との相対的な近接性を表すアクセシビリティ指標(Access)の間に以下の関係が成り立つものとし、推定を行った(ただし、Xはその他の企業属性ベクトル、εは誤差項を表す)。

\(\displaystyle\ln(Access_i)=\alpha+\beta\ln(Centrality_i)+\sum_j\delta_jX_{i,j}+\epsilon_i\)

一方で、多数の企業と空間上で近接する企業は、周囲の企業との交流を活発化することによって取引ネットワークを拡大することも容易であるため、企業間の地理的な近接性が取引関係に影響を及ぼすことも考えられる。この逆向きの因果関係の影響を取り除くため、操作変数法(注1)と呼ばれる推定法を採用した。その際、都市圏外企業との取引数を操作変数として採用し、企業の規模や都市間交通インフラへのアクセスを制御して推定を行った。主要な分析結果として、(i) 取引関係において中心的な企業ほど、都市内の他企業と近接した利便性の高い場所に立地すること、(ii) この傾向は産業毎に程度が異なり、設立後の経年数が少ない企業においては、情報サービスや専門・技術サービス業など、財の輸送よりも人的なコミュニケーションが重要となる産業の属する企業でこの傾向が特に強く現れること、また、(iii) 立地選択に事業所の配置の影響が含まれない本社企業に顕著であることなどが明らかとなった。以上は、企業間の取引関係が、取引に伴う輸送(交通)費用の存在を通じて、都市の空間構成に影響を及ぼし得ることを示している。

最近になって、地域の強みを活用することにより、新たな収益機会を地域内外に創出する事業を包括的に支援する仕組みが動き出している(「地域未来投資促進法」の制定)。事業が高い波及効果が生み、地域経済の好循環をもたらすためには、中核的企業と地元の企業や大学といったステークホルダーとの間の密接な連携が不可欠である。本稿で得られた分析結果は、促進区域の選定や企業への立地支援にあたっては、地域に既存する生産ネットワークの構造やその立地特性を踏まえて検討を行うことの必要性を示唆している。

図1:企業間取引ネットワーク(イメージ図)
図1:企業間取引ネットワーク(イメージ図)
図2:都市圏内の企業立地分布(広島大都市圏)
図2:都市圏内の企業立地分布(広島大都市圏)
脚注
  1. ^ 操作変数法:逆の因果性などにより、回帰変数と誤差項が相関している場合、通常の最小二乗法では推定結果にバイアスが含まれるという問題が生じる。そうしたときに、望ましい(一致性のある)推定量を得るために用いられる推定方法。
文献