ノンテクニカルサマリー

企業価値と内部留保

執筆者 猪瀬 淳也 (三菱総合研究所)
研究プロジェクト 持続的成長とマクロ経済政策
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第四期:2016〜2019年度)
「持続的成長とマクロ経済政策」プロジェクト

企業の最適資本構成の理論はMM(モジリアーニ=ミラー)理論に始まり多くの理論が提唱されている。これまでの理論の多くは静的な理論であったが、近年では動学的な変化を分析できる「動学的資本構成モデル」に関する研究も盛んである。本稿は、動学的資本構成モデルの考えを用いて、企業がどのような状況のときに内部留保を増加させるインセンティブを感じるのかといった分析を行ったものである。 具体的には、借入の無い企業を想定し、その企業は資産として①現金(図1のCash)、②(物理的な)資産(図1のProperty)を、また純資産として①株式(図1のStock)、②(利益)剰余金(図1のRetained Earnings)をそれぞれ保有すると考える。この上で、企業は当期の収益に対し、①どの程度を投資に回すか、②最終的な利益をどの程度配当に回すか、③どの程度市場から増資して資金を調達するか、の3つを独立に決められると仮定する。一般的な資本構成の理論に従えば、一定以上の現金がある場合には利益のすべてを配当に回すことが企業価値の最大化に貢献すると考えられているが、動学的な分析の中では必ずしも配当にすべて回さずに、利益を剰余金として保有して次期の生産を拡大させた方が最終的な株式価値が高まるケースも有りうる。 本稿で採用した仮定に基づけば、(1)成長率が高く保有現金比率が低い時に企業は利益を留保する、(2)現金保有比率は成長率の分散が高い時に上昇する、といった結論を得た。

図1:簡易化した企業のバランスシート
図1:簡易化した企業のバランスシート

このことから、企業の新陳代謝を高めることによって、内部留保を蓄積させない企業を増やすことが十分可能となることがわかり、内部留保の本格的な減少を行うためには、産業の新陳代謝を高める政策の有効性が示唆される。