ノンテクニカルサマリー

企業の内製生産のサプライヤーマネジメントにおける役割

執筆者 大野 由香子 (慶應義塾大学)
研究プロジェクト 組織間ネットワークのダイナミクスと地理空間
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「組織間ネットワークのダイナミクスと地理空間」プロジェクト

企業における中間投入財の最適な調達形態は、企業の特性や企業を取り巻く環境により異なると考えられる。サプライヤーへの外注は、内製する場合に比べ、生産規模増大による規模の経済メリットを上げうる一方、さまざまな取引コストを生じる。調達形態はそれらを考慮に入れ、外注と内製の二者択一と考えられる場合が多いが、中間財を一部内製生産することで、その生産に関わるノウハウを企業が内部に蓄積する場合、それは企業がサプライヤーとの生産協力関係を効率的に保つ上で、何らかの役割を果たし得るだろうか。

日本の自動車メーカーの自動車部品の調達形態を、2016年版自動車部品200品目の生産流通調査(株式会社アイアールシー、 2016)を用いて観察すると、部品によっては一部外注し、一部内製しているようなケースが見られる。それぞれの部品が自動車の車種ごとにどう異なるかは今回用いたデータからは観察できないが、同一の名称を持つ部品において、車種ごとの違いがあっても、生産技術や工程の代替性がある程度高い場合は、規模の経済の観点から考えると、外注と内製のどちらもが行われる場合は、生産の分割による規模の経済メリットの減少を越えるメリットがあり得る。

ここでは自動車の機械部品の調達のうち、自動車メーカーがサプライヤーに外注する場合、内製生産も行うか否かを、サプライヤーの地理的位置と規模に特に焦点を当て、東京商工リサーチのデータも用いて回帰分析を行った結果を基に示唆されることを述べる。まず、自動車メーカーがサプライヤーから外注する場合、距離の影響はサプライヤーの規模によって異なることが示唆された(注1)。少なくとも、外注先サプライヤーの規模が小さい場合、そのサプライヤーが地理的に遠くに立地している場合は、内製生産も一部行っている確率が高く、遠距離によるモニタリングコスト増大によるコントロールの低下を企業内部のノウハウの蓄積が補い得る可能性が示唆される。生産管理技術の向上により、複雑な生産工程を伴う中間財生産に関しても、地理空間に関わらず、取引の完全な外注がより可能となるかもしれない。

反対に、サプライヤー規模が大きい場合は、近いサプライヤーとの取引において、内製生産も生じる確率が高いことがうかがえる。部品が完全に均質でなくとも生産工程にある程度の代替性がありかつ規模の経済が働く状況で、企業が内製生産をも行う理由の1つとしては、例えばサプライヤーとの関係を効率良く保つ上で、地理的近接性がなんらかの非効率性を生じ、企業内のノウハウの蓄積がそれを補うという可能性が考えらえる。これに関しては、Joskow (1985、1987)が、地理的に近接な企業とサプライヤー間に、在庫や輸送コストを低く抑えること等に伴う関係特殊性が生れ、一旦築かれた慣行を、両者間以外で再び築き上げる難しさのために、互いに機会主義的行動に直面する可能性について述べている。サプライヤーの規模が大きい場合、代わりとなる同等なサプライヤーの数も少なく、サプライヤーの機会主義的行動に直面した場合に企業が被るコストも大きくなる可能性があり得る。企業にとっては交渉力を一定に保ち、中間財調達を健全に保つためにも、企業内のノウハウ蓄積が大切となるのかもしれない(注2)。こうした関係特殊性は、取引関係により築かれた資産でもあるが、上と同様に、生産管理技術の向上は、そうした資産を維持しながら、規模の経済性のメリットも上げる可能性がある。

表
脚注
  1. ^ 調達した部品が実際どのプラントに納入されるかなどの詳細が観察できないため、距離の変数として、自動車メーカーのプラント・本社とサプライヤーのプラント・本社の全ての組み合わせにおける距離の最低距離を使用した。
  2. ^ プロダクトサイクルの観点からすると、新たな車種を生産するに当たり、革新的な要素を含む可能性の高い部品に関して、内製生産が観察され、調整などの必要が少なくなり生産工程に規模の経済が働くようになった際、大規模で比較的モニタリングが容易な地理的に近いサプライヤーの存在が重要となると考えることもできる。
参考文献
  • Joskow, Paul L. (1985), "Vertical Integration and Long-Term Contracts: The Case of Coal-Burning Electric Generating Plants," Journal of Law, Economics, & Organization, Vol. 1, No. 1, pp. 33-80
  • Joskow, Paul L. (1987), "Contact Duration and Relationship-Specific Investments: Empirical Evidence from Coal Markets," The American Economic Review, Vo. 77, No. 1, pp. 168-185