ノンテクニカルサマリー

東日本大震災被災地における学校外教育バウチャーの効果測定:回帰不連続デザインに基づく分析

執筆者 小林 庸平 (コンサルティングフェロー)
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「労働市場制度改革」プロジェクト

問題意識と分析の概要

学習塾や家庭教師といった私的な教育サービスに対する家計の支出額は、年々増加してきている。私的な教育サービスへの支出額は世帯所得と強く相関しており、私的な教育サービスが子どもの学力等のアウトカムに影響を及ぼすのであれば、経済格差が教育格差を生み出すおそれがある。しかしながら、私的な教育サービスの効果を、定量的に分析した研究はまだまだ少ない。

そこで本稿では、公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンが東日本大震災後に被災地において実施している「学校外教育バウチャー」を取り上げ、その効果を回帰不連続デザインによって検証した。学校外教育バウチャーは、東日本大震災の被災地における貧困世帯の子どもに対して支給されており、受給者は、各自のニーズに応じて学習塾や家庭教師などでバウチャーを自由に使うことができる非常に柔軟な仕組みである。

分析結果のポイント

分析結果のポイントは以下の通りである。

(1)学校外教育バウチャーの受給者は、学力を上昇させている傾向がある。図は、バウチャー受給前後の学力の変化を標準偏差に換算して示したものである。バウチャーを受給していない場合、学力はほぼ横ばいであるのに対して、バウチャー受給者は標準偏差換算で0.45ほど学力を上昇させている。

(2)バウチャーの効果は、経済状況が悪い世帯の子どもほど大きい。図の右側は、バウチャーの効果を相対的貧困世帯の子どもであるか否かで分けて推定したものである。相対的貧困状態にない子どもに対するバウチャーの効果と比較すると、相対的貧困状態の子どもに対する効果はより大きくなる。

(3)学校外教育バウチャーは、休日の学習時間も平均30分ほど増加させている。また、統計的には有意ではないものの、通塾率も20%ほど上昇させている。

図:学校外教育バウチャー受給前後における学力の変化
図:学校外教育バウチャー受給前後における学力の変化

政策的インプリケーション

本稿の分析結果で示されたように、私的な教育サービスが子どもの学力などに影響を与えており、かつ、そうしたサービスを享受できるか否かが世帯の経済状況によって左右されるのであれば、経済格差が教育格差を生み出す可能性がある。その一方で、バウチャーのような柔軟な仕組みは、貧困世帯の子どもに対する効果的な支援策になり得るため、教育格差縮小のための有効な施策といえるかもしれない。実証研究の今後のさらなる積み重ねが求められる。