ノンテクニカルサマリー

日本にいる高度外国人材の移民流出の意思決定について:アジア・中国出身の労働者を対象に

執筆者 劉 洋 (研究員)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

経済発展と技術革新のために、高度外国人材(highly skilled foreigners)の受け入れが多くの国で重視 (OECD 2008)されている。日本においても、高度外国人材の受け入れ政策が積極的に実施されてきた。しかし、世界第3位の経済規模があり、かつ高度外国人材に対しては長い間、厳しい制限が設けられていないにも関わらず、高度人材の外国人移民が少ない。そこで、本研究は、日本にいる高度人材の外国人労働者の移住選択に影響を与える要因について、アジア、特に中国出身の外国人労働者を対象に、計量モデルを用いて検証する。高度外国人材とは、OECDの定義によると、大学など第3次教育機関を卒業した外国人労働者を指す(OECD 2009)。本研究もこの定義に従う。

日本以外の国では、外国人の移民流出の決定要因について、多くの理論研究、実証研究が行われている。しかし、日本の実証研究はまだほとんど行われていない。また、他国を含む実証研究では、企業側・就労環境の要因が外国人労働者の還流・流出の選択に与える影響も明らかになっていない。そこで、本研究は、労働者側のみならず、企業側・就労環境の要因も考察する。

本研究が用いたデータは、(独)労働政策研究・研修機構「日本企業における留学生の就労に関する調査」(2008)によるもので、サンプルの90%以上がアジア出身者で、77.4%が中国出身者の調査である(注1)。日本国内の従業員300人以上の企業とそこで働く留学生出身の外国人社員へ調査票が送られた。主な調査内容は、日本企業に就職している留学生の就労実態と就労意識と、企業が留学生を採用する際の問題点と採用状況とされる。企業調査と社員調査が共に実施されたため、企業側と労働者側の情報両方が含まれる。

主な結果として(表1)、検証結果で有意となった要因は、企業側に関しては、企業内部の労働力の分断、終身雇用、仕事の満足度であり、アジア特に中国出身の労働者側に関しては、移住の動機、滞在期間、婚姻状況である。そして、アジア特に中国出身の労働者の教育水準と、出身国との平均賃金格差は、理論的な要因でありながら、日本のデータを用いた本研究の分析には有意でない結果が示された。そして、日本の長時間労働も、アジア特に中国出身の移民の流出に対する影響も統計的に有意でなかった。

政策含意として、まず、企業内部の労働力の分断に関する分析結果に基づき、アジア特に中国出身の外国人社員を雇用する際に、単に外国語や海外事情のスキルのみならず、日本人社員と同じ扱いで、幅広いスキルで活用することは、イノベーションなどの効果(OECD 2008)はもちろん、アジア特に中国出身の外国人の定着にも寄与すると考える。それから、就職当時に日本で生活したいために日本の仕事に就いたアジア特に中国出身の外国人労働者は、将来海外へ流出する傾向が低い結果が示されたため、政府が高度外国人材を誘致する際に、新しい優遇措置を実施するのみならず、日本で生活するメリット(外国人が社会保険、公共サービスを利用可能なこと等)や、雇用の安定性(日本独特の終身雇用)は外国人にとって非常に魅力的なものでありながら海外ではあまり知られないため、それらの宣伝も有効であろう。

また、日本の雇用慣行が高度外国人材の誘致に阻害要因となるとの指摘がなされることがあるが、それを理由に、外国人を日本の雇用慣行から外すこと(労働時間の短縮など)は、必ずしもアジア特に中国出身の高度人材外国人の定着に寄与するわけではない(本研究で有意でない推定結果)。なぜなら、外国人社員のみの働き方を変えて、企業・社会全体が変わらなければ、外国人のキャリア・アップの機会の喪失をもたらす可能性があるためである。現行の雇用慣行の下で、高度外国人材の長時間労働などに適切な評価とキャリア・アップの期待を与えて、全体的な仕事満足度を高めることが重要である。長期的には、「働き方改革」は、日本人労働者のみならず、高度人材外国人の定着にも重要であろう。

表1:主な結果
表1:主な結果
(注)[ ]内はt値。***, **, *は有意水準1%, 5%, 10%。
脚注
  1. ^ 実際に日本にいる高度人材の外国人はアジア出身者、特に中国出身者が圧倒的に多く、調査年の2008年に、日本企業等に新規就職した外国人留学生の96.6%はアジア出身者であり、69.3%は中国出身者である(法務省2009)。
参考文献
  • Cassarino, J.P., 2004. Theorising return migration: The conceptual approach to return migrants revisited.
  • Jensen, Peter, and Peder J. Pedersen, 2007. To stay or not to stay? Out‐migration of immigrants from Denmark. International Migration 45(5), 87–113.
  • OECD. (2008). The global competition for talent: Mobility of the highly skilled. Paris: OECD.
  • OECD. (2009). "Managing Highly-Skilled Labour Migration." OECD Social, Employment and Migration Working Papers.
  • Van Hook, J., and Zhang, W., 2011. Who stays? Who goes? Selective emigration among the foreign-born. Population research and policy review, 30(1), 1–24.
  • 法務省, 2009,「平成20年における留学生等の日本企業等への就職状況について」http://www.moj.go.jp/content/000008050.pdf