ノンテクニカルサマリー

高所得者層は大都市のどこに居住しているか?

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「都市内の経済活動と地域間の経済活動に関する空間経済分析」プロジェクト

本研究では、住宅の取引価格や家賃が世帯の所得の増加関数であると仮定して、さまざまな所得階層が大都市のどこに居住しているかを明らかにした。具体的には、東京、広島、福山の都市圏において、住宅の取引価格・家賃とその住所のマイクロデータを用いることによって、異なる所得階層が都市内でどのようにすみ分けているかを分析した。

高所得者層が都市の郊外に居住場所を選ぶことは、伝統的な単一中心都市の経済理論によって説明されているし、米国のデータからも実証されている。しかしながら、東京、広島、福山都市圏のマイクロデータを調べてみると、高所得者と低所得者が都心に混在立地するのに対して、中間層は大都市圏のいたるところに居住する傾向にあることが判明した。そこで、通勤の時間費用を都市経済理論に組み込んだモデルを提示し、なぜこのような日米間の相違が生じるのかを分析した。その結果、所得の住宅需要弾力性と通勤費用が日米で大きく異なることがわかった。

特に東京都市圏の中古マンションに関しては、所得の住宅需要弾力性が1に近いこと、そして日本では通勤費用は企業が支払うことから、都市内のいたるところで異なる所得階層が同じ地区に居住することが判明し、理論的にも実証的にも整合的であることを立証した。以上のことから、居住にかかる補助政策は、地区に対してではなく、低所得者層に対して行うべきであることが明らかになった。

図:東京都市圏における中古マンション価格と都心からの時間距離
図:東京都市圏における中古マンション価格と都心からの時間距離