ノンテクニカルサマリー

米国の製造業がさらされる為替レートの影響

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

マクロ経済と少子高齢化プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「East Asian Production Networks, Trade, Exchange Rates, and Global Imbalances」プロジェクト

米ドルは依然として準備通貨のうち、支配的な地位にある。米国債など安全なドル資産に対する需要が為替レートを押し上げ、米国の経常赤字を拡大させている(Caballero, Farhi, and Gourinchas, 2015を参照)。また、為替操作によるドル高も経常収支を悪化させてきた。こうした資本流入によって米国では生産以上の消費が可能となり、これに伴う経常赤字は米国の雇用や産業の空洞化を引き起こしている。さらに、この経常赤字は保護主義的政策を打ち出したトランプ氏の大統領選挙時に見られたように、保護主義的な圧力を生み出している。

本稿は、為替レートの影響を最も強く受ける米国の業種について調査する。このため、共和分分析を行い、各業種の製造業輸出入における長期的な貿易弾力性を調査した。また、中国からの輸入とそれ以外の国からの輸入の為替レートに対する弾力性もそれぞれ推計した。

この結果、ドルが1%上昇すると、自動車、玩具、木材、アルミニウム、鉄鋼、その他一部の財における米国の輸出は1%以上減少する傾向にある。一方、医薬品や有機化学品などの高度な製品は、為替レートによる影響を受けていない。

輸入では、中国とそれ以外の国からの輸入を分けて調査することによって、結果はより明白である。中国からの輸入に関しては、履物、無線機、スポーツ用品、照明、腕時計の為替レートに対する弾力性は1に近い値か1以上である。鉄鋼、アルミニウム、その他製造業の製品、卑金属工具でも0.5以上の値である。一方、中国以外の国からの輸入に関しては、電熱器具(給湯器、温風ヒーターなど)、無線、家具、照明、その他製造業の製品の価格弾力性は1に近い値か、1以上である。アルミニウム、自動車、プラスチック製品に関しては、0.5以上である。さらに、その他一部の部門においては、価格弾力性は1以上で統計的に有意だが、医薬品については統計的に有意ではない。

為替レートが製造業に与える影響を調査するために、本稿はドルの変化に対し、各業種の株式市場がどのように反応するのかを分析した。理論上、株価は将来の純キャッシュフローの期待現在価値に等しい。したがって、為替レートが各業種の株式利回りに及ぼす影響を調べることによって、各業種の収益性への影響を明らかにすることができる。

表1に示すとおり、本稿では、ドル高になると輸出が減り、激しい輸入競争に直面する多くの業種(アルミニウム、鉄鋼、林業、製紙、自動車、履物)においては、株価も大きく下落することがわかった。また、医薬品や医療器具などの貿易弾力性が低いその他業種では、為替レートが株式市場に与える影響も低い。一方、選択的消費財や衣料品など、輸入製品を仕入れて米国の消費者に販売している一部業種は、ドル高による恩恵を受けている。

米国製造業の不均衡によって保護主義の圧力が大きくなっている。たとえばChe, Lu, Schott, and Tao (2016) によると、米国では、中国との競争にさらされている自治体では、保護主義を唱える政治家が支持される傾向がはるかに高いという。米国商務省は2017年12月、一般に保護主義的とみなされている中国からのアルミ材輸入に対して、アンチダンピング(AD)および相殺関税(CVD)の自主調査を開始した。同省がADの自主調査を行うのは、日本の半導体を標的にした1985年以来のことである。1985年には、非常に保守主義的な貿易法案99本が議会に提出された。同年、フランス、ドイツ、日本、英国、米国が協調してドル安を進め、保護主義の圧力を回避した(プラザ合意)。

ドル高が行き過ぎているのであれば、米国とその貿易相手国は、より多くの国を巻き込んでドル高是正に向け、同様の合意を検討すべきであろう。さらに、準備通貨としてユーロ、円、人民元などの通貨にシフトさせ、ドル安に誘導することも検討すべきである。

表1:為替レートが各株式利回りに及ぼす影響
業種 為替レート係数 HAC標準誤差 調整済み決定係数 回帰標準誤差
アルミニウム -1.46*** 0.55 0.453 0.081
非鉄金属 -1.36*** 0.48 0.415 0.081
製紙 -1.11*** 0.40 0.588 0.061
林業・製紙 -1.06*** 0.39 0.611 0.058
基幹資源 -1.04*** 0.28 0.526 0.056
フォード自動車会社 -1.01 0.66 0.356 0.099
鉄鋼 -0.80*** 0.31 0.506 0.069
商用車・トラック -0.73*** 0.26 0.587 0.050
履物 -0.73* 0.40 0.218 0.072
タイヤ -0.70 0.54 0.447 0.097
素材 -0.66*** 0.20 0.667 0.037
石油・ガス -0.60*** 0.19 0.442 0.041
汎用化学品 -0.52** 0.22 0.633 0.040
自動車 -0.47 0.46 0.485 0.073
特殊化学品 -0.46* 0.25 0.551 0.037
自動車部品 -0.45 0.28 0.608 0.043
航空宇宙 -0.38* 0.23 0.562 0.040
飲料 -0.35* 0.20 0.306 0.039
コンピュータ機器 -0.31 0.24 0.665 0.047
食料品 -0.29* 0.17 0.356 0.031
生活必需品 -0.27* 0.14 0.465 0.027
衣料品・アクセサリー -0.23 0.31 0.460 0.052
医療器具 -0.15 0.19 0.467 0.034
バイオテクノロジー -0.13 0.29 0.427 0.060
通信機器 -0.12 0.21 0.721 0.047
建築資材・付属設備 -0.11 0.20 0.658 0.039
蒸留酒製造・ワイン醸造業 -0.10 0.30 0.245 0.049
ビール醸造業 0.00 0.22 0.198 0.049
家具 0.16 0.32 0.563 0.054
一般消費財 0.19* 0.11 0.803 0.022
医薬品 0.22 0.16 0.441 0.034
玩具 0.27 0.30 0.219 0.026
半導体 0.43 0.33 0.572 0.065
衣料品小売 0.80*** 0.31 0.379 0.061
注)為替レート、Fama and Franch (FF)(1993) の3ファクター、Chen, Roll, and Ross (CRR)(1986)の5ファクターで回帰分析した業種別株式利回りにおける、為替レート係数を示す。為替レートにはFRBの広域実効為替レートを使用。FFファクターは、市場ポートフォリオ利回り、小型株の利回りが大型株を上回る小型株効果、成長株に対するバリュー株の超過利回りである。CRRファクターは、予想外のインフレ率、期待インフレ率の変化、米国債の長短金利差、社債発行利回りの対米国債スプレッド、鉱工業生産の伸び率である
*** (**) [*] は、1% (5%) [10%]の水準で有意であることを示す。
参考文献
  • Caballero, R., E. Farhi and P.-O. Gourinchas (2015), "Global Imbalances and Currency Wars at the ZLB," NBER Working Paper 21670, National Bureau of Economic Research.
  • Che, Y., Y. Lu, P. Schott, and Z. Tao (2016), "Does Trade Liberalization with China Influence U.S. Elections," NBER Working Paper No. 22178, National Bureau of Economic Research.