ノンテクニカルサマリー

混合複占における公企業への補助金と企業行動の分析

執筆者 東田 啓作 (関西学院大学)
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第III期)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「現代国際通商・投資システムの総合的研究(第III期)」プロジェクト

本プロジェクトでは、公企業(SOE: State-owned enterprise)への補助金の問題が主要なリサーチテーマの1つである。SOEへの補助金は (i)SOEによる過剰な投資や生産を招く、(ii)価格が下落し、時には限界費用よりも小さくなる、(iii)民間企業の利潤を消失させるといった負の側面が指摘されてきている。特に、民間企業が外国企業であることも多いため、国家間の貿易の問題として捉えられてきている(図1)。実際の補助金は、販売・生産補助金、生産設備への投資補助金などがあり、また形態もいわゆる補助金だけではなく有利な金利による融資なども見られる。

図1
図1

これらの補助金がどのような効果を持つのかについて、SOEと民間企業の行動の変化を通じて明らかにすることは、このタイプの補助金の是非を議論する際に極めて重要である。本稿の目的は、経済実験の手法を用いて混合複占においてSOEへの補助金が企業行動にどのような影響を与えるのかを明らかにすることである。Hampton and Sherstyuk (2012) によってデザインされた生産設備と価格とを2段階で選択する実験を混合複占に応用させ、実験室実験を行った。混合複占市場とはSOEと利潤最大化を目的とする民間企業とが競争する市場である。公企業の目的はいくつかのタイプが考えられるが、たとえばKitahara and Matsumura (2013)は社会厚生最大化としている。本稿では実験参加者の理解のしやすさの観点から、SOEの目的を利潤と生産量の加重和とした。そのうえで、販売に対する補助金と生産設備に対する補助金の2種類の補助金を別々に導入し(図2)、比較分析を行った。

実験結果から以下の点が明らかとなった。
(1)少額の補助金であっても、SOEと民間企業の両方の供給量の意思決定に比較的大きな変化が起き得る。
(2)補助金のタイプによって効果が大きく異なり得る。

たとえば後者については、販売に対する補助金は両方の企業の生産設備量と生産量とを増加させる一方、生産設備に対する補助金は民間企業の生産設備量を減少させる。さらに、企業の特性(SOEか民間企業か)、意思決定者の特性(リスク選好)、過去のライバル企業の意思決定が、それぞれの企業の生産設備や価格の意思決定に影響を与えることも明らかとなった。

図2
図2

供給に直接影響を与える販売(生産)補助金は、価格を大きく低下させる効果を持つ。このため、極めて少額の補助金であれば、不完全競争の歪みを解消するため余剰は増加する。しかし、現実に補助金が少額でとどまる保証はないうえ、正確な補助金額が観察・評価することが困難であることが多い。価格が大きく下落する場合には市場の歪みを大きくするため補助金交付は望ましくない。

生産設備に対する補助金は、民間企業の設備投資を減少させることから、価格の大きな低下が起きにくい。しかし民間企業のシェアが縮小しSOEのシェアが拡大することで、民間企業が外国企業の場合には、政策によって不利な競争条件の下で供給を行うこととなるため、国家間の貿易関連の問題を深刻にする。この観点から、特に正確な補助金が観察・評価されにくい場合には、生産設備に対する補助金も認められるべきではない。

参考文献
  • Hampton, K., K. Sherstyuk (2012). Demand shocks, capacity coordination, and industry performance: lessons from an economic laboratory. RAND Journal of Economics 43, 139-166.
  • Kitahara, M., T. Matsumura (2013). Mixed duopoly, product differentiation, and competition. Manchester School 81, 730-744.