ノンテクニカルサマリー

リーマンショック後の中小企業における設備投資とその変化:保証制度及びマクロ経済環境との関係

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「地方創生に向けて地域金融に期待される役割-地域経済での雇用の質向上に貢献するための金融を目指して-」プロジェクト

本稿では、どのような資金調達の制約が中小企業の資金調達に対して影響を持っているかを考察するため、「中小企業実態基本調査」(平成18年度〜平成25年度実績値)に収録されている中小企業のクロスセクション・データを用いて推定した。さらに業種ダミーや地方ダミーを援用することで、業種や地域による違いも示している。

現在、地方創生の関係から中小企業向け金融のあり方について、多くの議論が行われている。そのための課題が本稿の検証より明らかになると期待でき、この研究の意義もそこにあると考えられる。

本稿で用いるモデルは、いわゆるトービンのq型設備投資関数である。しかし説明変数としては、「投資1単位当たり期待収益率」であるトービンの限界のqだけでなく、資金調達とかかわるキャッシュフロー、負債、土地の各変数で設備投資を説明する設備投資関数も用いている。このモデル設定の背景には、企業による設備投資のための資金調達手段として、内部留保、負債、株式といった選択肢が存在しているという事実がある。たとえば負債の係数がマイナスであれば、負債残高が大きいときにさらなる借り入れによる設備投資が困難になっていること(デッド・オーバーハング制約)を、負債の係数がプラスであれば、負債によってさらなる設備投資が進められること(フリー・キャッシュフロー仮説)を示している。また土地は担保としての役割があるので、この係数が大きいと借り入れが担保の大きさに依存していることを意味する。

実証分析の結果、平成21年度(2009年度)までは中小企業が直面する流動性制約は緩和されていたこと、ほとんどの期間で、少なくとも現状の負債残高が設備投資を妨げることはなかったことを示された。このような状況は、2008年度から実施された緊急保証制度の効果があったと解釈できると考えられる。ただし高い負債比率を持つ企業については、負債による設備投資が相対的に進めにくかった状況もうかがえる。

また、2012年度の建設業において全体的に設備投資の底上げが見られた。これは、アベノミクス下における公共事業増加を予想した動きから起こったものと考えられる。しかし負債比率が高い建設業では、その時期、資金調達の制約がより強くなっていたこともあわせて示されている。

三大都市圏ダミーを用いた検証では、リーマンショック後に設備投資のための借入制約が強くなっていること、すなわちデッド・オーバーハング仮説が成立する傾向にあったことが示唆されている。表1では、2008年度・2009年度において、三大都市圏ダミーと負債比率のクロス項の係数が有意に負であることが示されている。この時期には資金繰りDIの悪化が観測されており、この実証結果とも整合的である。

これらの検証結果より、中小企業の資金調達に関する問題点として、企業の財務状況や業種間の違いもさることながら、三大都市圏とそれ以外の地域との差が存在していることが挙げられる。2017年5月に中小企業信用保険法等の一部を改正する法律案が成立したが、その中で地域の金融機関と保証協会が連携することが記載されている。地方によって景気動向は異なるものであり、地域経済を構成する業種も異なる。この施策を進めることで、地域の特性を踏まえた異なる保証制度を導入することが可能となり、地域によりギャップの解消につながるものと期待される。

表1:推定結果(三大都市圏ダミーを考慮・本文の表6‐1より抜粋)
表1:推定結果(三大都市圏ダミーを考慮・本文の表6‐1より抜粋)
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