執筆者 | 岡室 博之 (一橋大学)/池内 健太 (研究員) |
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研究プロジェクト | 企業成長のエンジンに関するミクロ実証分析 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
産業・企業生産性向上プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「企業成長のエンジンに関するミクロ実証分析」プロジェクト
21世紀に入ってから、産学官連携(大学・公的研究機関と民間企業との共同研究開発など)を促進し、地域経済を活性化するために、さまざまな政策支援が行われてきた。その1つが、文部科学省による知的クラスター政策(2002−2009年度)である。これは、地域の大学や公的研究機関を核とする産学官連携のイノベーション・システムである知的クラスターの形成を、クラスター地域の競争的選抜に基づいて重点的に支援する政策であり、当該期間に2つのクラスター支援事業(「知的クラスター創成事業」および「都市エリア産学官連携推進事業」)が実施されたが、この政策については、参加主体(大学や企業など)のミクロデータに基づく定量的な政策評価がまだ行われていない。
本稿は、総務省「科学技術研究調査」の個票データを用いて、クラスター事業に採択された大学・企業などとそれ以外の大学・企業などの比較、およびクラスター開始前後の比較によって、クラスター事業の参加大学・企業などへの効果を検証する。また、経済産業省「工業統計調査」の個票データを用いて、クラスター事業対象地域とそれ以外の地域の製造業事業所の比較、およびクラスター開始前後の比較によって、地域の製造業事業所への効果を検証する。
主な論点は、クラスター政策によって、1)クラスター参加大学・企業などの産学官連携が促進されるか(外部支出研究費、外部受入研究費が増加するか)、2)クラスター参加企業の生産性などの経営成果が高まるか、3)クラスター地域の製造業の生産性が全体として高まるか、である。
分析の結果、クラスター政策の開始後に参加主体間の産学官連携は促進されるが、それは必ずしも参加企業の生産性などの向上には繋がらないこと、またクラスター政策の開始後にクラスター地域の製造業事業所の労働生産性は全体としてはむしろ下がることが明らかになった。文部科学省のクラスター事業においては、研究の主体は大学や公的研究機関であり、企業が直接に公的補助金を受けることができず、関与が限られている。産学官連携の成果を参加企業の生産性向上や企業成長に繋げるためには、企業の関与の程度を積極的に高めることが重要だと考えられる。