ノンテクニカルサマリー

プラットフォーム産業における市場画定

執筆者 川濵 昇 (ファカルティフェロー)/武田 邦宣 (大阪大学)
研究プロジェクト グローバル化・イノベーションと競争政策
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム (第四期:2016〜2019年度)
「グローバル化・イノベーションと競争政策」プロジェクト

現在、プラットフォームとりわけデジタルプラットフォームがその多面市場(2つ以上の異なるタイプの需要者(たとえば、コンテンツ事業者とエンドユーザーなど)が存在し、それらが相互に影響を及ぼす市場)の特性およびデータ蓄積の規模の経済性などから大きく持続的な市場支配力(より活発な競争があれば実現され得た価格などの取引条件よりも自己に有利な取引条件を設定できる地位)をもつことがあるのではないか、また、それらの市場支配力が他の市場での競争の梃子となり、あるいはその他の市場での競争を制限する慣行の温床となるのではないかと懸念されている。

同問題の検討には、まず多面市場特性を有するプラットフォーム産業での市場画定(市場支配力の判断のために必要な取引分野の確定作業)をいかに行うかという問題の検討が必要である。多面市場に含まれる個々の取引市場間の相互依存関係を市場画定でどのように勘案するのか。しばしば見られる無料市場を市場と見ることが適切か否か。適切であるにしても競争的抑制を加えるプレイヤーをどのように識別するのか。その際、価格面から見た需要の代替性に注目した従来の手法がどのような難点をもつのか。さらにデジタルプラットフォームで重要な役割を果たすデータ蓄積の問題が市場画定や市場支配力分析でどのような役割を果たすのか。

本稿では、プラットフォーム産業を検討する際、基本的でありながら、わが国ではほとんど検討されることがなかったこれらの問題を、「無料市場」「イノベーション市場」「データ市場」の観点から検討することで、プラットフォーム産業における競争法執行の留意点を明らかにした。より具体的には、(1)市場画定不要論が価格競争を基本的な前提としていることを指摘したのち、品質競争の市場画定における意義を検討し、(2)無料市場の市場画定にかかわる議論の整理を行い、今後の競争政策の課題を示した上で、(3)イノベーション競争の効果を見るためにイノベーション市場を導入する必要があるのか否か、また、我が国でイノベーション市場概念を持ち込むことが現行法解釈上可能かどうかをめぐる問題点を検討し、(4)データ集積の競争法上の問題について検討を行った。

本稿における検討が、適切な競争法執行の一助になることが期待される。

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