ノンテクニカルサマリー

資源配分の変化に伴う地域の生産性向上と経済政策の役割―社会資本整備か規制緩和か―

執筆者 宮川 努 (ファカルティフェロー)/川崎 一泰 (東洋大学)/枝村 一磨 (科学技術・学術政策研究所)
研究プロジェクト 地域別・産業別データベースの拡充と分析 -地方創生のための基礎データ整備-
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「地域別・産業別データベースの拡充と分析 -地方創生のための基礎データ整備-」プロジェクト

アベノミクスで掲げられた三本の矢をめぐって、昨今、第1の矢である異次元の金融政策も手詰まり感が強くなり、第2の矢である財政支出による需要創出効果は東京オリンピック・パラリンピックまでは建設供給力が逼迫している。このため経済政策も第三の矢である成長戦略を中心に再編成をしなければならないものと考えられる。

このような背景の中で我々の論文はいわゆる需要創出型の財政政策ではなく、公的な支出により蓄積された社会インフラによる生産性向上に着目した供給サイドの長期的な効果に着眼した研究と位置付けられる。また、特に従来はこの社会資本整備は高速道路網整備や新幹線の整備など地域振興策とも密接に結びついてきた。ところが昨今では財政制約が厳しい中、構造改革特区や国家戦略特区など財政支出を伴わない地域限定の規制緩和策が行われ、一定の成果がみられるようになっている。

本研究では、こうした社会インフラを実物資産としての社会資本と、規制緩和といった制度的な無形資産としての社会基盤と捉え、そのそれぞれが地域の資源配分に影響を及ぼし、成長力(生産性)を高めたかを検証することを目的としている。具体的には各都道府県の生産性向上を地域産業の構成による要因、資本移動に伴う要因と労働力移動に伴う要因に分解し、社会資本整備や構造改革特区がこれらの要因にどの程度の影響を及ぼしたかを分析した。分析結果を大胆に整理すると以下の表のようにまとめることができる。

資本移動に伴う生産性向上 労働力移動に伴う生産性向上
社会資本 マイナスで有意の場合が多い 有意な結果は得られない
構造改革特区 有意な結果はほとんど得られない プラスで有意な場合が多い

我々の実証分析の結果、従来型のいわゆる社会資本は資本移動に伴う生産性向上は負値で有意となっており、収益率とは関係なく旺盛な投資が行われていたことや一度蓄積された資本の用途を変更することが難しいことなどからこのような結果となったことが推察される。一方労働力移動に伴う生産性向上は有意な結果が得られなかった。

一方、ルールなどの社会基盤の効率化を表す構造改革特区に関する分析では、資本移動に伴う効果は有意な結果を見出すことはできなかったものの、労働力移動に伴う生産性向上は有意に寄与していることが明らかになった。

こうした結果を踏まえると、財政制約が厳しい中、より効果的に地域振興を図ろうとするならば、我々は構造改革特区や国家戦略特区などの規制改革により産業や知識の集積効果を追求する方が有用なものと考えている。Sims理論(物価水準の財政理論)やアメリカでのトランプ政権の誕生などで拡張的財政政策が注目される中、量的な投資規模ばかりにとらわれることなく、どのように成長につなげていくかをまさに「戦略的」に捉える必要があるのだろう。