ノンテクニカルサマリー

環境パフォーマンスを規定する要因は何か?:「経営の質」の影響を中心とした考察

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「無形資産投資と生産性 -公的部門を含む各種投資との連関性及び投資配分の検討-」プロジェクト

パリ協定発効に象徴されるように、環境問題は世界的にホットなトピックになっている。本稿は、日本経済新聞社『環境経営度調査』の総合スコアを環境パフォーマンス(corporate environmental performance [CEP])と捉え、それがどのような要因に規定されているか検証した。具体的には、経営の質だけでなくガバナンス構造や株式保有構造なども決定要因として考慮することで、このCEPが口先だけの取り繕い―いわゆるgreenwashing―なのか、名前の通り何らかの経営度を反映したものか検証した。図表1に整理した通り、経営の質を表していると考えられるマネジメント・プラクティスのスコア(経営スコア)が高い企業はCEPも高く、社外取締役比率やブロックホルダーの持株比率などをコントロールした定式化においても結果は頑健であった。CEPは経営の質に裏打ちされた指標であるため、これを手がかりに投資家が企業の「見えざる資産」を積極的に評価するようになれば、環境経営を通じた長期的な価値創造を後押しすることにもなり、広義の投資を促進する好循環を生むと期待される。

図表1:推計結果のまとめ
(被説明変数:CEP) Model 19 Model 21 Model 22
経営スコア
取締役人数
社外取締役比率
国内ブロックホルダー
海外ブロックホルダー
ファミリー企業 -
(備考)
1. 表6の推計結果をもとに作成
2. △:プラスで有意、▼:マイナスで有意、-:有意ではない

『日本再興戦略2016』は、「投資決定に当たって、ESG要素を重視する見方が広がり、さらに進んで国連責任投資原則に署名する機関投資家が増えつつあることも踏まえ、企業の中長期的な成長力や収益力の強化に向けて、企業と投資家との対話が積極的に進むように促す」と謳っている。引用文中のESGは、環境、社会、ガバナンス(environment, society, and governance)の英語の頭文字を取ったものである。国連事務総長であったコフィー・アナンが、金融業界に提唱した責任投資原則(PRI)においてESGという表現を用いたことで広く定着した。

世界を見渡すとPRI署名機関は着実に増加してきており、ESG要因を投資判断に組み入れたESG投資がnew normalになりつつある。2015年9月には、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)もPRIに署名した。GPIFは他の公的年金や企業年金のベンチマークとなっていることから、今後は国内においてもESG投資が加速すると見込まれる。

国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)が用いる標語で“financing change, change financing”というものがある。「変化を志す者にファイナンスを、そのためにはファイナンスの方法をchangeしなければいけない」という意だが、ESG情報を手がかりに「見えざる資産」を適切に評価するためには、投資家の意識改革を促すだけでなく、経済学、経営学、会計学の垣根を取り払ってアカデミズムもchangeしていく―統合思考(integrated thinking)を身に付けていく―必要があろう。