執筆者 | 森川 正之 (理事・副所長) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)
1.背景
経済成長率の低迷が続く中、人工知能(AI)やロボットの開発・普及による「第四次産業革命」が、将来の成長の牽引役となることへの期待が高い。反面、AIやロボットが人の雇用を奪うリスクへの懸念も強い。しかし、AI・ロボットの経済効果に関する経済学的な研究は緒に就いたばかりであり、特に定量的なデータに基づく実証分析は数少ない。
こうした中、Morikawa (2016)は、日本企業に対する調査を行ってAI・ロボットの雇用への影響を分析し、AI・ロボットと高スキル労働の補完性、特に大学院卒というかなり高いスキル・レベルでの強い補完性を示唆する結果を示している。本稿は、就労者・消費者を対象とした調査に基づく分析によって、企業(労働需要)サイドから分析したMorikawa (2016)を補完するものである。
2.分析内容
2016年11月に独自の調査を実施して1万人のサンプルを収集し、年齢・教育水準・職種といった各種個人特性と、AI・ロボットが自身の雇用に及ぼす影響への見方の関係について分析を行った。
また、対人サービスの消費者の視点から、どのようなサービスのAI・ロボットへの代替に対する期待が強いのか、逆に人間によるサービスへの選好が強いのかについて分析を行った。調査結果のクロス集計を中心とした記述統計的な分析に加えて、各種個人特性を考慮したプロビット推計を行った。
3.分析結果と政策含意
分析結果によれば、約3割の人がAI・ロボットで自分の仕事が失われることを懸念しており、特に20歳代、30歳代という若い世代、パートタイム・派遣労働といった雇用形態、事務職や生産工程の職種において仕事が代替されることへの懸念が強い。他方、大学・大学院卒業者、特に理科系の教育を受けた人はAI・ロボットの生活への影響を肯定的に捉え、また、自身の雇用への影響は小さいと見る傾向がある(図1参照)。ただし、高学歴という汎用的な高スキルのほか、専門学校での教育履歴や職業資格といった専門的なスキルを持っていることも、AI・ロボットによる仕事の代替への懸念を弱める傾向が見られた。産業別に見ると、医療・福祉、教育といった産業に従事している人は、仕事のAI・ロボットへの代替リスクが低いと考えている。
ユーザー側の分析からは、保育・医療・教育といった対人サービスは、人間によるサービスへのニーズが強く、AI・ロボットによって代替されにくい可能性が示唆された(図2参照)。これは、就業者側の分析において医療・福祉、教育といった産業の従事者が、AI・ロボットで仕事が失われるリスクを低く評価していることと整合的である。
これらの結果は、AI・ロボットの開発・普及が進んでいく中、大学・大学院教育や対人サービスに係る職業訓練を通じて、AI・ロボットに代替されにくいスキルを形成していくことの重要性を示唆している。
- 参照文献
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- Morikawa, Masayuki (2016), "Firms' Expectations about the Impact of AI and Robotics: Evidence from a Survey," Economic Inquiry, forthcoming.