執筆者 | 浜口 伸明 (ファカルティフェロー)/後閑 利隆 (日本貿易振興機構アジア経済研究所)/早川 和伸 (日本貿易振興機構アジア経済研究所)/亀山 嘉大 (佐賀大学)/丸屋 豊二郎 (福井県立大学)/松浦 寿幸 (慶應義塾大学 / KU Leuven)/白又 秀治 (北陸AJEC)/張 栩 (福井県立大学) |
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研究プロジェクト | 国際化・情報化新時代と地域経済 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
地域経済プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「国際化・情報化新時代と地域経済」プロジェクト
日本の地域経済構造は、地方と大都市の補完的な関係で発展してきた。地方は食料やエネルギーの供給源であり大都市は消費地であった。また地方は大都市に集積した産業活動に従事する人材の供給源でもあり、所得の一部が地方交付金として大都市から地方に移転され、地方のインフラ整備に使われてきた。
しかし、地方においては、伝統的な農林水産業あるいは誘致企業の工場が提供する雇用による「稼ぐ力」は落ち、地方から大都市への若者人口の流出が加速した。このまま地方の人材供給力も落ちていけば、大都市経済が競争力を維持することも困難に成るだろう。
地方経済を活性化することを通じて都市と地方のほどよいバランスを回復し、日本経済全体を安定的な成長に導くという観点で、地方創生は大きな意義を持っている。他方で、地方創生の議論は、ともすると人口減少問題にばかり注目されがちであるが、人口を維持することを政策目標にすることは正しくない。まずは、地方の「稼ぐ力」を回復することが重要であり、そのためにはむしろ人口が減少することを前提にしたほうが考えやすい。大都市と地方という国内で閉じた2地域の関係で考えることも改めたい。
これまでは大都市に対して相対的に労働力が豊富で賃金が安いということから、地方では労働集約的な農林水産業や組立工場の誘致で所得を生み出してきた。しかし、特に若者の人口流出によって、今後はこのような様式は有効ではない。地方はすでに人手不足に直面しており、労働生産性を上げなければならないのだ。農林水産業のような自然資源を使う産業では、人口減少によって就業者1人当たりでみれば利用可能な自然資源が増加するので(もちろん資源管理を適正に行うことは重要)、新しい技術を使って大規模生産を行い、生産性を高めることができる。販売先は国内の大都市だけに依存するのではなく、国際化する必要がある。製造業についても国際化はキーワードになる。大都市の企業の下請けに甘んじていては、この先の成長は期待できない。これまでの研究は、生産性の高い企業であれば地方にあっても国際化は可能であり、国際化することで企業の生産性はさらに上昇することを示している。
本研究では、北陸3県(富山、石川、福井)の製造業企業を分析対象として、個票データを用いて国際化と生産性の関係を分析した。企業の国際化という場合、商品の輸出や直接投資による海外生産への参入を意味する。北陸を分析対象とした理由の1つは、この地域の鉱工業生産指数が全国平均と比較して際立って高い伸びを示しているからだ。北陸は子供の学力や女性の働きやすさでも常に全国でトップレベルにあり、生活の質の高さでも知られている。
分析を行った結果、北陸の域内企業総数に対する国際化企業のシェアは3大都市圏に次いで高く、その他の地方圏よりも高い水準にあるだけでなく、より幅広い業種で国際化が進んでいるが、企業規模が小さいため、国際化している企業の生産性は3大都市圏のそれを大きく下回っている。一方、国際化していない企業の生産性を地域間で比較すると北陸企業の生産性は相対的に高い。実証研究や現地調査から、北陸では繊維、プラスチック、一般機械産業などで特徴のある産業集積が形成され、同業種の企業との近接性から生産性を高める効果を得ており、公設試験機関などの研究開発のための公的機関が高い頻度で利用されていることが明らかになった。これまでの研究では一般に国際化している企業としていない企業の間で、前者の生産性が統計的に有意に高いという結果が一般的であったが、北陸については、国際化していてもしていなくても企業の生産性に明確な差がなく、この北陸企業の分析結果は予想と違っていた。
そこで、各地域において、これまで輸出していなかった企業に関し、1%の生産性上昇が、輸出を始める確率をどれだけ上昇させたかを、1990年代後半と2000年代について計算したところ、下図に示したような結果が得られた。輸出環境がよければ生産性の上昇に対してより敏感に反応するはずなので、このグラフは地域の輸出環境の良さを表していると解釈できる。分析結果は、2000年代に北陸の輸出環境はほとんど改善しておらず、1990年代後半に同じ水準であった北海道・東北、北関東、東海に差を広げられ、低い水準にあった中国・四国、九州・沖縄に追いつかれていることを示している。輸出環境の改善が遅れているために、北陸では企業の生産性が高くても輸出しない傾向があり、国際化した企業としていない企業の間に明確な生産性の差が見られないのである。
さらに分析を進めてみると、北陸では、自社で輸出をしていない場合でも、輸出企業に製品を販売している企業は、そうでない企業よりも生産性が統計的に有意に高いといえることがわかった。すなわち、間接的であっても国際化に関わっている企業は生産性が高いということはできるので、国際化している企業はそうでない企業よりも生産性が高いという一般的に支持されている仮説は、北陸企業についても広義には支持される。実際に北陸では、原材料(川上)でも完成品(川下)でもなく、素材・中間財(川中)産業の成長に期待する声がよく聞かれる。北陸は地域内に主要な貨物港を持たないため輸出環境は劣位にあるが、南関東、東海、近畿の3大工業圏とつながっているという立地特性を生かして、企業はサプライヤーとして間接的に国際化する方向を目指してきた。しかし、日本企業がアジアに生産拠点を移し、韓国、中国、台湾の産業集積が成長していることを考えると、今後は国内の他地域を経由してではなく、海外と直接結びついて、さらに国際化を進めるべきである。そのために国際貿易インフラの整備や海外企業とのビジネスマッチングを進めることが重要であろう。