ノンテクニカルサマリー

効率性・流動性・ボラティリティ・取引高の日中季節性:東京市場とNY市場におけるプラチナと金

執筆者 岩壷 健太郎 (神戸大学)/Clinton WATKINS (神戸大学)/徐 涛 (神戸大学)
研究プロジェクト 商品市場の経済・ファイナンス分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム (第四期:2016〜2019年度)
「商品市場の経済・ファイナンス分析」プロジェクト

1.背景

世界中の商品先物取引所で同じ商品先物が取引されるのはなぜだろうか? 近年、商品先物取引所の多くで夜間取引時間が延長され、同じ商品先物が同じ時間に複数の取引所で取引されることは珍しいことではなくなってきている。商品先物市場のグローバル化と通信技術の進歩によって取引コストは低下し、同じ質の商品先物は裁定取引を通じてほぼ一物一価が成立している。それならば、流動性や価格発見に優れ、効率的な価格を提供している市場に取引が集中してもおかしくはない。ところが、現実には多くの市場で同じ商品先物が取引されている。これはなぜだろうか?

2.目的と方法

市場ごとに異なる市場特性があるならば、それを選好する特定の投資家が存在し、その市場の存在価値が生まれる。本研究では、東京市場とNY市場で取引されているプラチナ(白金)と金を分析対象として、流動性や効率性などのマイクロストラクチャー指標を比較し、市場特性が異なるかを検証する。具体的には、それぞれの市場における価格の情報効率性、ボラティリティ、取引高、流動性の日中季節性を計測し比較する。次に、効率性とボラティリティ、効率性と取引高、効率性と流動性の相関関係を計測し、それらを理論に照らし合わせて、2つの市場において取引を行っているのが主に情報投資家なのか、非情報投資家なのかを識別する。ここで、情報投資家とは将来価格の私的情報を保有しており、投資収益を求めて取引する投資家であるのに対し、非情報投資家は流動性投資家、ノイズ投資家、ヘッジ投資家に分類され、いずれも将来価格に関する私的情報を有していない投資家を指す。

3.結果

各変数には以下のような日中季節性が見られた。分散比率(Variance Ratio)を用いて計測した効率性はプラチナ市場も金市場もW字型の日中季節性が見られた。1日の取引時間を東京、ロンドン、NYの日中時間に区別すると、東京とロンドンの日中時間のオープニングに効率性の悪化が見られるが、徐々に改善する。一方、NYの日中時間ではオープニングの効率性は良いが後半には効率性が悪化していく。リターンのボラティリティも効率性とほとんど同じパターンを描く。東京、ロンドン、NYの日中時間のオープニングでは比較的高く、東京時間ではL字型、ロンドン時間ではU字型、NY時間では終盤にかけて低下していく。

反対に、取引高や流動性の日中季節性はプラチナ市場と金市場では異なっており、東京市場とNY市場でも異なっている。プラチナの取引高については、東京市場では東京時間に、NY市場ではNY時間に取引が集中しており、東京時間では逆J字型、ロンドン時間ではL字型の日中季節性のパターンが見られる。一方、NY時間では一方的に取引高が減少していく。金の取引高については、NY市場におけるNY時間のオープニングに最も高く、東京市場のそれをはるかに上回っている。

流動性指標として取り上げた気配スプレッドとAmihud(2002)のILLIQ(リターンの絶対値を取引額で割った非流動性指標)については、取引高と同様、東京市場では東京時間に、NY市場ではNY時間に流動性の改善が見られ、東京市場の流動性はオープニングから終盤にかけて徐々に悪化していく。

次に、効率性とボラティリティ、効率性と取引高、効率性と流動性の相関関係を理論に照らし合わせて、導き出した結果は以下の通りである。1日を通してみると、プラチナも金も東京市場では、ほとんど全て負の相関関係を示しているため非情報投資家による取引が活発であるが、NY市場では東京市場のような現象が観察されず、情報投資家と非情報投資家のどちらの取引がより盛んであるとはいえない。ところが、東京、ロンドン、NYの日中時間に分割すると、2つの商品先物のどちらの市場でも東京時間では、多くが負の相関関係を示しているため非情報投資家の取引が盛んであり、NY時間では多くが正の相関関係を示しているので、情報投資家が積極的に取引を行っている。

以上の結果は、同じ商品先物が取引されている市場でも取引高や流動性については日中季節性が異なっており、市場特性が異なっていることを示している。また、取引が多く流動性が高い時間帯であっても、主たる取引主体が情報投資家である場合と非情報投資家である場合は市場によって異なることが示された。さらに、投資家は時間帯によって異なる市場特性を踏まえながら取引する時間帯を選んでいることが明らかになった。

表1:効率性と各変数との相関係数の符号とその統計的有意性
表1:効率性と各変数との相関係数の符号とその統計的有意性
(注)解釈しやすいように、分散比率とボラティリティ、分散比率と取引高の相関係数は(-1)をかけることで、効率性とボラティテイ、効率性と取引高、効率性と流動性の相関とみなすことができる。***, **, *はそれぞれ1%,5%,10%で相関係数が有意であることを示している。
参考文献
  • Amihud, Y., 2002. Illiquidity and stock returns: cross-section and time-series effects. Journal of Financial Markets, 5, 31-56.