ノンテクニカルサマリー

グローバル・バリュー・チェーンへの参加と売上、要素投入に関する日本の工場間の異質性

執筆者 伊藤 公二 (コンサルティングフェロー)/Ivan DESEATNICOV (筑波大学)/深尾 京司 (ファカルティフェロー)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

近年、国境・産業を越えた生産工程の細分化が世界的に普及・発展し、グローバル・バリュー・チェーン(GVC)が果たす役割の重要性が強調されている。このため、OECD・WTOによる付加価値貿易データベース(Trade in Value Added, TiVA)やフローニンゲン大学による世界投入産出データベース(World Input-Output Database, WIOD) など、GVCの分析のため国際産業連関表を構築する複数のイニシアティブが推進されている。しかし、同一産業においても輸出や国際活動には企業や工場間で異質性があることが多くの国で実証的に確認されており、こうした異質性を考慮しないと国際産業連関表を利用した分析にバイアスが生じるおそれがある。

そこで、本稿は、総務省・経済産業省『経済センサス-活動調査』の事業所データと厚生労働省『賃金構造基本統計調査』の労働者データを接合した事業所-従業者マッチングデータを利用してOECDの国際産業連関表(Inter-Country Input–Output table, ICIO table)における日本の製造業に属する16業種の産出活動を輸出向け・国内販売向けに分割した。さらに、分割したICIO tableを用いて、OECD-WTOによるTiVAの指標のうち、前方連関(forward linkage、注1)および後方連関(backward linkage、注2)の指標を計算し、両者の比較・検討を行った。

図1は、forward linkageの指標である海外による日本からの輸入需要が創出した総付加価値のうち国内で生み出された付加価値の割合、backward linkage の指標である海外による日本からの輸入需要が創出した総付加価値のうち海外で生み出された付加価値の割合(両者の和は1に等しい)について、製造業全体・複数の業種について比較したものである。分割したICIO tableを用いて計算した国内創出付加価値の割合はTiVAよりも低い水準となっている。

また、forward linkageのもう1つの指標として、日本以外の全世界の最終需要が生み出した日本の付加価値総額およびその産業別内訳も計算したが、多くの業種ではTiVAよりも低い水準であった(図2)。

図1:日本の製造業の輸出が生み出した国内創出付加価値・海外創出付加価値の割合
図1:日本の製造業の輸出が生み出した国内創出付加価値・海外創出付加価値の割合
図2:日本以外の全世界の最終需要が日本の製造業で創出した付加価値が日本の製造業付加価値全体に占める割合:業種別
図2:日本以外の全世界の最終需要が日本の製造業で創出した付加価値が日本の製造業付加価値全体に占める割合:業種別

この結果は企業の国際化の実態と極めて整合的である。元来、日本の製造業は競争力が高く、forward linkageが高い水準にあると考えられていた。しかし、同じ製造業の中でも特に生産性の高い一部の企業だけが国際活動を積極的に推進しており、輸出を通じて海外需要を呼び込むと同時に、生産の海外移転や企業内貿易、オフショアリングなどを通じて製品に体化された付加価値の一部を海外で生み出している(呼び込んだ海外需要の一部を海外に漏出させている)。一方、大半の企業は国内からの調達・国内向け販売に終始しており、輸出向け生産と国内販売向け生産では投入産出構造が大きく異なっている。分割したICIO tableはこうした投入産出構造の相違を反映しており、それだけforward linkageが低下するのである。

なお、国際活動を行う企業は資本集約的・技能集約的と考えられるが、海外による日本からの輸入需要が創出した要素投入を計算したところ、資本や高度人材(大卒従業員)では輸出向け生産に投入される割合が比較的高く、予想を裏付ける結果となった。

GVCの分析を行う上で国際産業連関表は極めて有益なツールである。より正確な分析を行うためには本稿で行ったように国際活動を巡る企業の異質性を反映する方向での改善が期待される。

脚注
  1. ^ 前方連関(forward linkage)とは、日本の産業による海外への関与を示す。より具体的には、日本の製造業の輸出が生み出した国内創出付加価値、日本以外の全世界の最終需要が日本の製造業で創出した付加価値が日本の製造業付加価値全体に占める割合等で示される。
  2. ^ 後方連関とは、海外の産業による日本の産業への関与を示す。