ノンテクニカルサマリー

高齢化社会における移民に対する態度:日本の場合?

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究 (第四期:2016〜2019年度)
「高齢化社会における移民に対する態度の調査研究」プロジェクト

昨今、移民受入のあり方が多くの先進国で大きな社会問題になっている。これは、多文化主義を基本としてきた諸国でも、同化を基本としてきた諸国でも同様である。このような背景の中で、社会一般で広く建設的な議論を移民政策について展開できるのか、あるいはどのようにすれば可能になるのか、新たな知見が求められている。したがって、移民政策への態度の決定要因を理解することがより重要になってきており、しばしば社会的な属性や外国人居住者ならびに滞在者の多寡の地域による違い(地理的要素)に注目が集まっている。 翻って、近年は増加傾向にあるものの、日本の移民の人口比率は、全国で2%程度、最も高い東京都でも4%程度であり(在留外国人統計による)、OECD諸国平均の10%程度と比べてかなり低い水準にある。少子高齢化の急速な進展への対策の1つとして、移民受入の拡大が考えられるが、そのような政策が社会的に受け入れられるのか、エビデンスを収集することは、重要である。

そこで本稿は、Facchini, Margalit and Nakata (2017)の分析を補完する形で、移民政策に対する態度、あるいは情報の影響の大きさについて、年齢、性別、教育水準といった属性による差が見られるか、検証する。データは、経済産業研究所によって2015年11月から12月にかけて実施された大規模なインターネットによるアンケート調査によって収集されたもののうち、情報を与えられた直後に移民政策に関する質問に回答した6000名のみを対象とする。

表1:属性ならびに情報の影響の大きさ(基準グループと比較した増加分の点推定値)
移民受入増への支持 受入増への陳情に署名
男性 女性 男性 女性
世代(50歳超) △16% △4% △6.5% 0 - △1%
教育水準(短大・高専以上) △2.6% △8% △2% △7%
移民受入の便益に関する情報 △7 - △18% △15 - △25% ▲4 - △4% △4 - △10%

表1は、基準となる回答者グループ(50歳以下、高卒以下、移民受入の便益に関する情報を受けていない)との比較による、世代と教育水準の2つの属性と移民受入増による便益に関する各種情報の影響の大きさを示している。この表から明らかなように、男性については50歳超と50歳以下の世代間による態度の違いが大きい一方、高等教育を受けたか否かでの相違は、限定的である。これに対して、女性回答者の間では、高等教育を受けた回答者の方がより移民受入増に積極的である一方、世代間による大きな違いが見られないことが特徴的である。また、移民受入を増やすことによる便益を説明した各種情報の影響が、男性よりも女性に対してかなり大きいことも読み取れる。ここでは、因果関係を示すことはできないが、仮説として、(1)男性での世代間の違いは、若い世代では移民受入の拡大による労働市場への影響の懸念が大きいこと、(2)また女性については、教育水準の違いによる移民政策に関する情報の質・量の格差が存在することで移民受入への支持率に違いがあること、(3)少子高齢化の悪影響が直接及ぶ主婦層の潜在的な認識が情報を与えられることで顕在化していること、などが考えられる。また、表には示されていないが、教育水準による情報の影響の大きさの違いは、男女ともに見られなかった(この点は、上述の2つ目の仮説にやや反する)。

本稿の結果により、以下のことが示唆される。まず、移民受入に関する利害関係をどのように考えているのかに応じて、受け入れへの態度の違いが見られると推察される。したがって、移民受入と併せて、社会全体、特に労働市場やライフサイクルのあり方を議論していくことが、移民受入拡大が広く受け入れられるようになる為には必要であることを示唆している。また、教育水準による情報の影響の大きさに違いが無いことは、基本的な理解力について教育水準の違いによる大きな社会的分断がないことを示唆している。 後者の点は、政策決定の際、エビデンスが示されれば、合理的な議論に深化できる、というFacchini, Margalit and Nakata (2017)の結果を補強するものである。

文献